非アルコール性脂肪肝(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH) - 病理診断と肝移植における問題
京都大学医学部附属病院 病理部 羽賀 博典
非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease, NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis, NASH)はインスリン抵抗性症候群 (insulin resistance syndrome, Syndrome X, metabolic-syndrome)に伴って見られる肝疾患である。すなわちNAFLDやNASHは食事・生活様式に関連した生活習慣病としての性格を持つ。NAFLDの一部がNASHに,さらにその一部が肝硬変に進展する。NAFLD/NASHは日本国内で増加傾向にあり,NAFLD/NASH疑い症例に対して肝生検が行われる機会が増加傾向にある。
NALFLD/NASHの所見や病期の進行程度の記載法についてはウイルス性肝炎のように定型的な記載方法はないが,BruntのGrading, Stagingがしばしば引用されている(Brunt EM. Am J Gastroenterol 1999;94:2467)。Gradingは(1) 脂肪肝の割合,(2) 肝細胞の膨化変性,(3) 炎症に基づいている。
肝の線維化は類洞内/中心静脈周囲から進展することが特徴的であり,その評価には膠原線維染色などの特殊染色が必須である。肝移植において,グラフトの脂肪肝が移植後の成績に関係することがわかっている。30%以上の脂肪肝ではグラフト機能不全(primary non-function)になる割合が有意に高く,60%以上の脂肪肝は移植の禁忌である。
生体肝移植においてはレシピエントだけでなく,ドナーの安全性を考慮する必要がある。ドナー肝の半分以上を切除する必要のある右葉移植では30%以上の脂肪肝は使用しないとする施設が多い。京都大学病院で「健常」とされた生体肝移植ドナーにおいても5%以上の脂肪肝は約2割に認められ,軽度であるが術後の肝機能に影響する傾向を認めた (Yamamoto K. Liver Transpl 2004;10:C29)。NASHにおける広範囲な肝切除は術後肝障害の危険因子となりうるため術前の評価が重要である。
早期胆嚢癌
加古川市民病院 臨床検査科 岡村 明治
私どもの一般総合病院では外科の手術例の中で胆嚢摘出術が30%程度ともっとも多く、さらに術中迅速診断を依頼されることもある。疾患としては胆石症に伴う慢性胆嚢炎が大部分であるが、時に早期胆嚢癌がある。したがって、炎症に伴う反応性の上皮増殖と腫瘍性の上皮増殖を鑑別が重要である。本講習会では自験の早期胆嚢癌を例に鑑別について述べる。
膵臓の発生から考えられる膵腫瘍マーカーの候補
大阪府立成人病センター病理・細胞診断科 片岡 竜貴
正常細胞が癌細胞に形質転換する際には、偶発的な遺伝子の変異の積み重ねが必要であり、一般的にヒトにおいては数十年の歳月がかかると考えられている。組織中で数十年も存在し続けるのは組織幹細胞のみであり,その他の細胞群は分化しやがては消失するので突然変異の蓄積は生じ難い。そのため、現在では、癌は、組織中に低頻度で存在する幹細胞に由来すると考えられている。例えば、子宮頚癌の発生母地とされる予備細胞などがこれに当たる。
幹細胞は、細胞分裂し、分化能を持った細胞と同時に自己複製能を持った細胞を生み出す細胞である。癌を構成する細胞群はヘテロな集団である。これは、癌化した幹細胞が不等分裂し、自己複製能を持った細胞群と、限られた増殖能しか持ち合わせない分化傾向を持った細胞群を生み出すためとされている。この自己複製能を保持する癌化した幹細胞=癌幹細胞の概念は、1978年にSalmon SE らが指摘しており、最近では、CD24陰性CD44陽性細胞が乳癌における癌幹細胞であるとの報告がある。
幹細胞は、また、未分化性を維持した細胞であるともいえる。この未分化性の維持にはいくつかのシグナルが関与することが知られている。そして、これらのシグナルのいずれもが、癌の発生・進展に関与することが報告されているものである。
膵癌において発生・進展への関与が報告されているK-ras (Ras / Raf / MAPK signaling),
DPC4 (Smad4; BMP / Smad signaling), Stat3 (JAK / Stat signaling),
Akt signaling, notch signalingなどがその代表的なものである。
このようなことを考慮すると,癌細胞、特に、癌幹細胞は、幹細胞の性質を残しており、組織幹細胞の同定に用いられる遺伝子群は癌幹細胞の同定にも有用である可能性が高いと考えられる。
膵臓は、内胚葉から発生し、膵管上皮細胞・外分泌細胞・内分泌細胞から構成される。 いくつかの遺伝子がそれぞれの成分、ないしは、その複数の成分の発生に必須であることが、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスの解析よりわかっている。 Pdx-1,
Neurogenin-3, nestin, HNF-6, Nkx2.2, p48 / ptf1がその代表例である。 これらの遺伝子について、様々な膵腫瘍での発現パターンを検討することは、新たな膵腫瘍マーカーの同定につながることが期待される。
今回は,以上のような考えに基づいた膵腺房細胞癌の腫瘍マーカーの候補について報告する.