唾液腺腫瘍の組織診断
−Basaloid cells, Clear cells および Oncocytic cellsからなる腫瘍型の鑑別を中心に−

広島大学大学院名誉教授・大阪歯科大学客員教授  二階 宏昌

 日常の診断業務において多形性腺腫やWarthin腫瘍以外の唾液腺腫瘍に出会う機会は比較的まれであるにもかかわらず、その種類はきわめて多く、現行のAFIPやWHO分類に掲げる上皮性腫瘍は30型以上にも及んでいる。唾液腺の癌腫の特徴として、低グレードの腫瘍型が多いことがあげられ、診断に当たってはそれらと良性腫瘍はもとより中等度ないし高グレードの癌腫とを見分けることがとりわけ重要である。しかし悪性度の異なるいくつもの腫瘍型が組織構築・増殖パターンや構成細胞を共有し組織学的類似性を示すため、相互間の鑑別が問題となることは少なくない。唾液腺腫瘍には専ら腺上皮あるいは筋上皮成分だけからなる腫瘍型も存在するが、多くの腫瘍はこれら両細胞成分からなる2相構造を備え、luminal cellsとその外周で増殖する筋上皮ないし基底細胞様のnon-luminal cells(腫瘍性筋上皮細胞)への2方向性分化をみることができる。2相性の管状・索状構造、筋上皮/基底細胞様細胞からなる充実性胞巣やそれらの細胞外基質物質産生による篩状パターン、硝子様構造などはいくつかの異なる腫瘍型に共通してみられる所見である。なお、大・小唾液腺腫瘍には共通の分類が適用されるが、腫瘍型によってかなりの部位特異性があり、部位によって良・悪性の内訳にも大きな違いがある。組織像の似た腫瘍の鑑別には発生部位も有用な指標となる。
 本講演では上記の唾液腺腫瘍の特徴について総括した後、構成細胞に共通性がみられ鑑別を要する腫瘍グループとして、(1) 基底細胞様細胞を基本的成分とする腫瘍(腺様嚢胞癌、基底細胞腺腫・腺癌、基底様扁平上皮癌)、(2) おもに明細胞からなる腫瘍(明細胞性オンコサイトーマ、皮脂腺腫・皮脂腺癌、明細胞型の腺房細胞癌および粘表皮癌、明細胞性悪性筋上皮腫、単形性/明細胞優位型の上皮ー筋上皮性癌、明細胞癌/硝子化明細胞癌)、(3) おもにオンコサイト化した細胞からなる腫瘍(オンコサイトーマ・オンコサイト癌、 オンコサイト性嚢胞腺腫・腺癌、オンコサイト型の腺房細胞癌および粘表皮癌、オンコサイト性筋上皮腫・悪性筋上皮腫)を取り上げ、関連する各腫瘍型の組織学的類似点と相違点について検討する予定である。