神経変性疾患を病理診断するために:最近の知見を含めて
東京都神経科学総合研究所 神経病理学研究部門 小柳 清光

病院病理に所属され生検と剖検に携わっておられる先生方が、ヒト脳の病理学的検索が必要になった時にお持ちになるスタンスは、大きく4つに分けられると思われる。
1. 脳の病理検索と診断は行わず、それを専門にしている者に委託する。
2. 脳疾患の病理検索と診断を自分で行うが、基本的な分類に止める。
3. 検索と診断は主として自分が行うが、神経病理に詳しい者にコンサルトしながら進める。
4. 詳細な検索を自ら行い、現在議論中の領域にも踏み込んで診断する。
上記2と3の先生方が本講演の主たる対象となると思います。

その先生方が神経変性疾患の基本的な病理診断を的確に行うために:

A. 臨床症状を詳しく聞き取り検索に反映させる。

B. 剖検時の標本処理が検索の重要なカギとなることがある。
(1) 神経変性疾患では多くの場合病変部が萎縮し、色調が変化する。萎縮・変色部分を捉えて、光顕用ホルマリン固定標本に加え、可能なら凍結標本と電顕用グルタール固定標本を採取する。なるべく所見のマクロ写真を残し、標本作製部位の確認とコンサルテーションのための情報とする。
(2) 萎縮・変色を捉えるためには脳の正常像を把握しておかなければならない。

C. パラフィン標本作製部位
(1) 疾患特異的な組織所見の好発部位を逃さないこと。
(i) 認知障害性疾患では:前頭葉、側頭葉、アンモン角など。
(ii) 不随意運動を示す疾患では:基底核、黒質、小脳、脊髄など。
(iii) 運動麻痺を来す疾患では:大脳運動野、脊髄など。

D. 見逃したくない疾患を的確に診断するための基本となる染色法
(1)ヘマトキシリン-エオジン染色標本が全ての検索、診断の基本となる。
(2)免疫染色
(i) タウ: 神経原線維変化→アルツハイマー病、進行性核上性麻痺など。
(ii) A_: 老人斑→アルツハイマー病や脳の加齢性変化。
(iii) _シヌクレイン:レビー小体、グリア細胞質封入体→パーキンソン病(レビー小体病)、多系統萎縮症など。
(iv) シスタチンC:ブニナ小体→筋萎縮性側索硬化症(ALS)
(v) ユビキチン:種々のユビキチン化封入体→ALSなど。
(vi) 1C2:ポリグルタミン→ある種の脊髄小脳変性症など。

E. 神経病理学的検索と診断の為に:
(1)上記抗体類を揃えるか?それとも・・・・・。
(2)日本神経病理学会コンサルタントシステム: http://www.jsnp.jp/