中枢神経系代謝異常の病理
洛和会神経病理研究センター 田中順一
脳神経系は全身臓器の一つであり,肝臓,脾臓,リンパ節など一般諸臓器とほぼ同じ過程で種々の物質代謝が行われている.脂質,多糖類,炭水化物,アミノ酸,金属,色素などが酵素欠損のために代謝異常が起こると,中枢神経にも障害が現れる.とくに糖脂質の代謝異常は脳障害を起こしやすく,ライソゾームに局在する分解酵素の先天的欠損によるものが多い.中枢神経障害の主な疾患には蓄積症(storage
disease)と白質ジストロフィー(leukodystrophy)があげられる.
蓄積症は全身性疾患として現れ,とくに神経系と関連が深いのは脂質代謝異常によるリピドーシスである.小児期に発症することが多く,特定の水解酵素の先天的欠損のために神経組織にスフィンゴ脂質が蓄積し重篤な障害を引き起こす.その代表的な疾患にはTay-Sachs病(GM2ガングリオシドーシス),GM1ガングリオシドーシス,Gaucher病,Krabbe病(galactocerebrossidosis),Niemann-Pick病(sphingomyelinosis),異染性白質ジストロフィー(galactosyl
sulfatidosis),Niemann-Pick病(sphingomyelinosis),Fabry病がある.そのほか,コレステロール,多糖類,銅,アンモニアなどの代謝異常による中枢神経系の疾患には脳腱黄色腫症,Lafora病,Wilson病,Menkes病,肝性脳症などがある.
一方,白質ジストロフィーは先天的酵素欠損のために髄鞘の主成分である脂質代謝に異常が起こり,髄鞘の形成と維持が障害される疾患群である.ほとんどが遺伝性であり,小児期に知能および運動の発達障害をきたし,大脳白質の広範な脱髄,貪食細胞の浸潤,星膠細胞の増生,皮質下弓状線維の保存などが共通した所見である.その中でも蓄積症の病態を兼ねるものに異染性白質ジストロフィー(MLD:
metachromatic leukodystrophy)とグロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD:globoid cell
leukodystrophy:Krabbe病)がある.まれな白質ジストロフィーに副腎白質ジストロフィー(ALD: adrenoleukodystrophy),ズダン好性白質ジストロフィー(SLD:
sudanophilic leukodystrophy),Pelizaeus-Merzbacher病,Alexander病,Pelizaeus-Merzbacher病,Canavan病があり,これらの脳神経系の病理変化について述べる.
最後に,わが国において近年,注目された那須-Hakola病の中枢神経および骨の病変について言及する.