骨腫瘍の病理診断
京都大学医学部附属病院 病理部
中嶋 安彬
骨病変の診療には、整形外科医・画像診断医・診断病理医・分子医学専門家などの協力・合議が必要で、臨床所見・画像診断・肉眼所見・病理組織学的所見・
分子医学的データ、等を総合して診断を行う。取り分け画像所見は不可欠であり、画像所見を参照せずに骨病変を診断する事はできない。骨病変を専門とする画
像診断医の意見を必ず聞き、もし適当な専門家が得難い場合でも、少なくとも主治医と共に画像診断を検討しておくべきである。組織学的診断においては他臓器
における組織診断と同様に、弱拡大で病変全体の構築を把握する事が最も大切である。免疫染色は時に有用であるが、一般に H&E
染色での診断が容易な場合程、免疫染色も典型的な陽性所見が得られる場合が多く、 H&E
染色標本での診断が極めて困難な症例では、たとえ免疫染色を膨大に施しても特異的な結果が得られ難い、という傾向がある。診断困難な症例において、ごく限
られた検体について免疫染色の所見を次々と積み重ね、その組み合わせで診断を行おうとすると、結果として間違った木にどんどんよじ登ってしまう場合もあ
り、不毛な事も多い。そのような場合は、取り敢えずよじ登ってしまった木から先づ降りて、先入観を去り、臨床所見、画像所見、肉眼所見、等の基本事項に立
ち戻り、H&E 染色標本を再度慎重に検鏡し直す事も重要である。骨・軟部腫瘍の新 WHO 分類 (2002)
にも示されている如く、免疫染色や分子遺伝学的検索などにより飛躍的に発展しつつある軟部腫瘍領域に比べると、骨腫瘍分類の基本的 scheme
には大きな変更は見られていない。骨腫瘍の組織像は相互に重なる一方、例外も多く、最も重要な良悪性の判定を含めて増生細胞の性格を正確に見極める必要が
あり、いくつかの所見の比較的単純な組み合わせのみに従って最終的な確定診断に至るのは容易ではないので、個々の腫瘍の診断基準を逐一各論的に理解し、身
に付けておく必要がある。今回は許された時間の範囲でできるだけ実例を供覧し、診断のかなめとなる点について要点を述べる。