「異状死」ガイドライン
平成6年5月
日本法医学会
(日法医誌 1994 第48巻, 第5号, pp-357-358 掲載)
医師法21条に「医師は、死体又は妊娠4ヵ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察暑に届け出なければならない」と規定されている。
これは、明治時代の医師法にほとんど同文の規定がなされて以来、第2次大戦中の国民医療法をへて現在の医師法に至るまで、そのまま踏襲されてきている条文である。
立法の当初の趣旨はおそらく犯罪の発見と公安の維持を目的としたものであったと考えられる。
しかし社会生活の多様化・複雑化にともない、人権擁護、公衆衛生、衛生行政、社会保障、労災保険、生命保険、その他にかかわる問題が重要とされなければならない現在、異状死の解釈もかなり広義でなければならなくなっている。
基本的には、病気になり診痕をうけつつ、診断されているその病気で死亡することが「ふつうの死」であり、これ以外は異状死と考えられる。しかし明確な定義がないため実際にはしばしば異状死の届け出について混乱が生じている。
そこでわが国の現状を踏まえ、届け出るべき「異状死」とは何か、具体的ガイドラインとして提示する。
条文からは、生前に診療中であれば該当しないように読み取ることもできるし、その他、解釈上の問題があると思われるが、前記趣旨にかんがみ実務的側面を重視して作成したものである。
[1] 外因による死亡(診痕の有無、診療の期間を問わない)
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不慮の事故
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A. 交通事故
運転者、同乗者、歩行者を問わず、交通機関(自動車のみならず自転車、鉄道、船舶などあらゆる種類のものを含む)による事故に起因した死亡、自過失、単独事故など、事故の態様を問わない。
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B. 転倒、転落
同一平面上での転倒、階段・ステップ・建物からの転落などに起因した死亡。
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C. 溺水
海洋、河川、湖沼、池、プール、浴槽、水たまりなど、溺水の場所は間わない。
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D. 火災・火焔などによる障害
火災による死亡(火傷・一酸化炭素中毒・気道熱傷あるいはこれらの競合など、死亡が火災に起因したものすべて)、火焔・高熱物質との接触による火傷・熱傷などによる死亡。
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E. 窒息
頸部や胸部の圧迫、気道閉塞、気道内異物、酸素の欠乏などによる窒息死。
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F. 中毒
毒物、薬物などの服用、注射、接触などに起因した死亡。
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G. 異常環境
異常な温度環境への曝露(熱射病、凍死)、日射痛、潜函病など。
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H. 感電・落雷
作業中の感電死、漏電による感電死、落雷による死亡など。
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I. その他の災害
上記に分類されない不慮の事故によるすべての外因死。
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自殺
死亡者自身の意志と行為にもとづく死亡。
絡頸、高所からの飛降、電車への飛込、刃器・鈍器による自傷、入水、服毒など、自殺の手段方法を問わない。
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他殺
加害者に殺意があったか否かにかかわらず、他人によって加えられた傷害に起因する死亡すべてを含む。
絞・扼頸、鼻口部の閉塞、刃器・鈍器による傷害、放火による焼死、毒殺など。
加害の手段方法を問わない。
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不慮の事故、自殺、他殺のいずれであるか死亡に至った原因が不詳の外因死
手段方法を問わない。
[2] 外因による傷害の続発症、あるいは後遺障害による死亡
例)頭部外傷や眠剤中毒などに続発した気管支肺炎
パラコート中毒に続発した間質性肺炎・肺線維症
外傷、中毒、熱傷に続発した敗血症・急性腎不全・多臓器不全
破傷風
骨折に伴う脂肪塞栓症 など
[3] 上記【1】または【2】の疑いがあるもの
外因と死亡との問に少しでも因果関係の疑いのあるもの。
外因と死亡との因果関係が明らかでないもの。
[4] 診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの
注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。
診療行為自体が関与している可能性のある死亡。
診療行為中または比較的直後の急死で、死因が不明の場合。
診療行為の過誤や過失の有無を間わない。
[5] 死因が明らかでない死亡
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死体として発見された場合。
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一見健康に生活していたひとの予期しない急死。
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初診患者が、受診後ごく短時間で死因となる傷病が診断できないまま死亡した場合。
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医療機関への受診歴があっても、その疾病により死亡したとは診断できない場合(最終診療後24時間以内の死亡であっても、診断されている疾病により死亡したとは診断できない場合)。
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その他、死因が不明な場合。
病死か外因死か不明の場合。
(日本法医学会教育委員会(1994年当時):柳田純一(委員長)、木内政寛、佐藤喜宣、塩野 寛、辻 力、中園一郎、菱田 繁、福島弘文、村井達哉、山内春夫)
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