3.大腸の非腫瘍性ポリープ

大阪医科大学第一病理 江頭由太郎

大腸から採取された生検材料の大半は、臨床的に“ポリープ”と診断されたものである。近年、大腸ポリープの標準的治療法として内視鏡的切除術が確立されてから、日常病理業務において大腸ポリープの組織診断に臨む機会はますます増加している。ポリープとは限局性の粘膜隆起を示す病変の総称であって、病理診断名ではない。病理組織学的に様々な種類の病変がポリープの形態をとることが知られている(表1)。大腸ポリープの約80%は腫瘍性病変(腺腫、腺癌)であり、非腫瘍性病変の方が頻度は少ないが、より多彩な疾患が含まれている。本セミナーでは、非腫瘍性ポリープを、日常よく遭遇する病変から、比較的稀な近年提唱された病変までを列挙し、その概念、肉眼像(内視鏡像)、組織像を概説する。

1. 過形成性ポリープ Hyperplastic polyp

概念
かつては化生性ポリープ(Morson, 1962)と呼ばれた病変で、腺管の鋸歯状変化を伴う過形成性増殖からなる隆起性病変である。
肉眼像
通常は5mm以下の無茎半球状あるいは平坦な隆起を呈する。隆起表面は平滑で光沢のある白色調を示す。大型のものは表面が脳回転状のことがある。
組織像
分岐のほとんどない延長した腺管の増生がみられ、腺管の上半部には鋸歯状の凹凸(saw-tooth appearance, serrated )が認められる。増殖細胞は腺管の基底側1/3から1/2に分布している。

(鑑別疾患)鋸歯状腺腫 Serrated adenoma

概念
Urbanski らは1984年に過形成性ポリープと腺腫が同一病変内に共存する例を Mixed adenomatous hyperplastic polyp(MHAP)として報告した。Longacre らはこの MHAPのうちで鋸歯状構造を有した腺腫腺管からなるものを、狭義の鋸歯状腺腫(serrated adenoma)として区別した(1990)。
肉眼像
過形成性ポリープと類似した肉眼像を呈する。1 cm より大きいものが多く、有茎性病変の占める割合が高いとされているが、結節状や扁平な病変の報告もみられる。白色調で脳回転状の表面構造を呈することが多い。
組織像
腫瘍性の細胞異型を有する鋸歯状腺管の増生がみられる。増殖細胞は鋸歯状構造の凹部(谷部)に多く分布する(過形成性ポリープとの組織学的鑑別点)。

2. 過形成性結節 Hyperplastic nodule

概念
大腸粘膜の腺管・上皮の過形成からなる隆起で、過形成性ポリープとの相違は腺管が鋸歯状化を伴わない点である。直腸にみられることが多く、多発する傾向がある。
肉眼像
過形成性ポリープと同様の形態像を示すが、大きさはより小さく3mm前後である。
組織像
鋸歯状変化を伴わない腺管の延長からなる。

3. 過誤腫性ポリープ Hamartomatous polyp

(I) 若年性ポリープ Juvenile polyp

概念、臨床像
幼少児によくみられるので、この名が付けられているが、約 1/3 は成人に発症する。直腸およびS状結腸が好発部位であり、大多数は単発性である。下血を主訴とすることが多く、しばしば頭部が自然脱落 autoamuptation を起こす。
肉眼像
有茎性であることが多く、表面は平滑で発赤が強く、時にびらん形成をみる。
組織像
嚢胞状拡張を伴う異型の乏しい腺管の増生と間質の浮腫性・炎症性拡大からなる隆起性病変である。

(II) Peutz-Jeghers 型ポリープ Peutz-Jeghers polyp

概念
Peutz-Jeghers 症候群でみられる多発ポリープと 同様の組織像を示すポリープが、皮膚色素沈着などの所見を伴わず単発でみられる場合をPeutz-Jeghers 型 ポリープと呼ぶ。
肉眼像
有茎性の隆起で、頭部は若年性ポリープとは異なり分葉傾向を示す。表面の色調は白色調であることが多いが、発赤したものもみられる。
組織像
粘膜筋板の樹枝状増生とそれに伴う異型の乏しい腺管の増生が本態をなす。

4. 良性リンパ濾胞性ポリープ Benign lymphoid polyp

概念
反応性リンパ濾胞の粘膜固有層および粘膜下層での限局性増殖からなる隆起性病変。大部分は直腸に発生し、rectal tonsil 、benign lymphoma 、pseudolymphoma とも呼ばれる。
肉眼像
大きさは通常 1cm 以下で、白色調の平滑な半球状隆起を示す。ときに、多発するが大きさは均一で、分布も均等である。
組織像
粘膜固有層深層から粘膜下層に濾胞構造を伴うリンパ組織の反応性増生がみられる。低悪性度MALT型悪性リンパ腫との鑑別が問題になることがある。

5. 炎症性ポリポーシス Inflammatory polyposis

概念
炎症性ポリポーシスは潰瘍性大腸炎、 Crohn病、腸結核などの炎症性疾患に伴ってみられる多発性の粘膜隆起である(Morson,1972)。広義の炎症性ポリポーシスには、潰瘍の取り残した島状粘膜がポリープ様に突出してみえる“偽ポリポーシス(pseudopolyposis)”と、粘膜の過剰な再生(過形成)により生じたポリープの多発からなる狭義の炎症性ポリポーシスとが含まれている。単発性の炎症性ポリープの頻度は低い。
肉眼像
楕円形、棍棒状、紐状など不整形で奇妙な形態のものが多い。活動性炎症が存在する場合は発赤調で、炎症が消褪すると褪色調を呈する。
組織像
再生性あるいは過形成性の腺管の増殖により構成され、粘膜固有層には種々の程度の炎症所見がみられる。単発の場合は若年性ポリープとの鑑別が困難なことがある。

6. CAP ポリポーシス CAP polyposis

概念
直腸、S状結腸に多発する特異な炎症性ポリープで、1985年に Williams らによって提唱された。隆起病変の頂部に帽子( cap )状の線維性膿性滲出物の付着した肉芽組織がみられることから命名された。
病態
病因は直腸粘膜脱症候群(MPS)との臨床的・病理学的類似性から下部大腸の粘膜脱や運動機能異常の関与が示唆されている。
肉眼像
直腸・S状結腸に存在するたこいぼ状あるいは芋虫状隆起で、隆起頂部に発赤、膿性白苔の付着および、びらんがみられる。
組織像
隆起の頂部に線維性膿性滲出物の付着した肉芽組織がみられる。病変部粘膜固有層に炎症細胞浸潤と線維筋症が認められることが多い。

7. Colonic muco-submucosal elongated polyp (CMSEP)

概念
1992年に真武らが提唱した、組織学的に分類不能な長い茎を有した大腸ポリープ。
肉眼像
正常粘膜に被覆された有茎性の細長い隆起性病変。隆起頭部には脳回転状雛壁がみられ、発赤やびらんがみられることもある。
組織像
隆起は異型や炎症のない粘膜層と粘膜下層より構成されており。固有筋層は含まれない。粘膜下層には浮腫状の疎性結合織と線維化のどちらか一方あるいは両方がみられる。粘膜下層には血管やリンパ管の拡張、筋線維増生も高頻度にみられる。

8. Cronkhite-Canada症候群 Cronkhite-Canada syndrome

概念
消化管ポリポーシスに皮膚色素沈着、爪甲の萎縮・脱落、および脱毛を伴う非遺伝性の疾患である(Cronkhite and Canada, 1955)。ポリポーシスに起因する消化管からの蛋白漏出による栄養障害が、これらの外胚葉系の異常の原因と考えられている。50歳,60歳代に好発し、本邦では男性に多い。ポリープは胃と大腸に多発し、比較的高率に消化管癌や腺腫の合併がみられる。
肉眼像
浮腫状で発赤の著明なポリープがびまん性にみられ、ポリープ間の介在粘膜にも浮腫や発赤が認められる。ポリープや介在粘膜に粘液の付着が目立つ。
組織像
腺管の嚢胞状拡張と蛇行を伴う過形成と、粘膜固有層の浮腫性・炎症性拡大がみられる。この変化はポリープのみならず、びまん性に介在粘膜にもみられる。

(鑑別疾患)若年性ポリポーシス Juvenile polyposis

概念
若年性ポリープが消化管に多発する症候群である。ポリポーシスが大腸のみに限局する、juvenile polyposis coli、胃のみに限局する、gastric juvenile polyposis、食道を除く全消化管に分布する、generalized juvenile gastrointestinal polyposis に亜分類される。約20%に癌化が報告されている。本症の約半分は常染色体優性の遺伝形式を示す。1998年に第18番染色体上のSMAD 4が病因遺伝子として特定された。
肉眼像、組織像
個々のポリープの形態はいずれも若年性ポリープと同じで、肉眼像は発赤の目立つ有茎性から亜有茎性の隆起で、組織像では嚢胞状拡張を伴う腺管の増生と間質の浮腫性・炎症性拡大からなる。また、ポリープの形態像のみではCronkhite-Canada症候群との鑑別は困難であるが、若年性ポリポーシスの場合はポリープ間の介在粘膜が健常であることより鑑別できる。

9. Cowden 病 Cowden's disease

概念
消化管全域におよぶポリポーシスを呈する常染色体優性の遺伝性疾患で、最初に報告された患者名よりこの名が冠された(Lloyd and Dennis, 1963)。顔面四肢の小丘疹、口腔粘膜の乳頭腫症、さらに甲状腺、乳房、生殖器などの全身諸臓器に過誤腫性病変を生じる。中年期以降には内臓悪性腫瘍や乳癌を合併する。1997 年には病因遺伝子が第10染色体上に特定され、腫瘍抑制遺伝子の PTEN と確認された。
肉眼像、組織像
食道、胃、小腸、大腸に過形成性の隆起性病変が多発する。消化管ポリポーシスで、食道にびまん性ポリポーシスがみられるのは Cowden 病のみであり、これは診断的価値の高い所見である。大腸では過形成性ポリープよりも過形成性結節の多発がみられることが多い。

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