約1ヵ月前鼻閉にて他院受診。内視鏡手術施行するも、鼻閉がさらに悪化し、精査のため阪大病院耳鼻科受診。同年7月6日鼻腔内視鏡術施行。鼻腔内は易出血性の表面不整の肥厚した鼻腔粘膜で充満していた。同部より生検。
採取材料はすべて腫瘍部で、既存の腺組織を残しながらpolymorphousな小円形細胞の充実性、瀰漫性増生を認めた。増生の主体は短紡錘形から棍棒状、類円形の核を有する小型から中型の細胞で、これと共に好中球、組織球、小型リンパ球が種々の割合で混在していた。ところどころに小さな壊死を有しているが、標本内に血管侵襲性の浸潤は認めなかった。
Extranodal NK/T cell lymphoma, nasal typeはNK細胞への分化を有するリンパ球系腫瘍である。NK細胞はMHC非拘束性のキラー活性やADCC活性を有し、ウイルス感染や腫瘍免疫における主要なeffector細胞としての役割を担っているリンパ球で、形態的に大型で、胞体内にアズール顆粒を持つためLGL (large granular lymphocyte) とも呼ばれる。通常、生体内では末梢血、脾臓、肝臓、肺や腸管粘膜に分布し、リンパ節には存在しない。腫瘍細胞がNK細胞への分化を有することへの証明としてはCD56+, surface CD3-, T cell receptor の再構成がないことである。CD56+以外に CD3ε+, CD45RO+などのT細胞性マーカーが陽性になる場合もあり、手元にパラフィン材料のみで表面マーカーや遺伝子再構成を調べることが不可能な場合があるため、NK/T cell lymphomaと命名されている。現在のところNK cell lymphomaとNK/T cell lymphomaの間で大きな違いはなく両者を厳密にわけることは困難であり、臨床上もその必要はない。また、CD56-であってもCD 3ε+やcytotoxic granule (granzyme B, TIA-1 and perforin)が陽性の場合も本疾患に加える。
歴史的にみて本疾患は免疫組織や分子生物学解析の進歩以前はPolymorphic reticulosisと診断されていた。REAL分類ではangiocentric lymphomaに分類されている。欧米に少なく、日本を含めた東アジア、中南米に多いという地理的特徴をもち、ぼぼ全例で腫瘍細胞にEpstein-Barrウイルスが証明される。成人に多く、男性優位、発生部位は通常節外性で、鼻腔を中心とした上気道領域に好発するが、軟部組織、空腸を中心とした腸管、精巣、皮膚にも発生する。臨床的には鼻閉などで発症しいわゆるLethal midline granulomaという広範な顔面中心性の破壊まで進展する。鼻腔領域に発症したものは上気道に限局し、骨髄浸潤は稀である。しかし急速にあらゆる箇所に進展する。ときに血球貪色症候群を合併する。皮膚では潰瘍、腫瘤を形成し、小腸では穿孔することが多い。
病理診断するにあたっては鼻腔から生検材料されることが多いがこの場合、量が少なく、壊死がしばしば広範にみられることより、一見炎症様にみえ、診断が難しいことが少なくない。組織学的には小型から中型の棍棒状、類円形、楔状、多角形などのirregularな形の核をもつ多様性のある腫瘍細胞の同定が重要で、CD56などの免疫染色が診断の補助となる。angiocentric patternの出現は約2割である。予後は臨床病期が若い場合は放射線療法によく反応し寛解することもあるが、病期が進むと予後不良である。