肝移植後の長期グラフト不全について


京都大学医学部附属病院病理部 宮川 文

 日本国内の肝移植は脳死ドナーの不足のため生体肝移植を中心に発達してきた。その手術手技・免疫抑制剤の使用法とも年々向上し現在では成人間の生体肝移 植が日常的に行われるようになった。これまで50以上の施設で累計3,000件以上の肝移植が行われており,種々の肝不全の治療として確立した感がある。
 臓器移植ドナーの慢性的不足状態の中で,肝グラフトの晩期合併症をいかに抑えるかは重要な課題である。移植後の肝生検診断は拒絶反応や感染症の診断・治 療に有用である。肝移植後の長期生存例が増えるに従って,晩期の合併症に対する病理診断が求められる機会が増加している。我々は肝移植後の晩期合併症につ いて,特にde novo 自己免疫性肝炎 (AIH)と慢性拒絶反応に焦点を当てて検討を行った。
 肝移植後数ヶ月以降に,原疾患がAIHでないにもかかわらずAIH類似の病態が出現する症例があることを1998年Kerkarらがde novo AIHとして報告した。De novo AIHは当初ステロイド反応性の予後良好な疾患として報告されたが,我々は当院において経験した症例(肝移植全体の約2%)の長期経過観察の結果から、 de novo AIHでは治療にもかかわらず、線維化は徐々に進行し、必ずしもグラフトの予後は良くないことを明らかにした。
 De novo AIHの危険因子としては女性,急性拒絶反応の既往、移植時年齢11-15歳が挙げられた。de novo AIHの患者では通常のAIH患者に多いとされるHLA-DR3, 4が低頻度であったこと、補助的部分的生体肝移植において移植肝にのみに慢性肝炎像が認められ、自己肝には肝炎像を認めなかった症例を見いだしたことか ら,de novo AIHは真の自己免疫疾患というより慢性肝炎様の拒絶反応である可能性が示唆される。
 古典的な慢性拒絶反応は、肝門部の閉塞性動脈病変と末梢の胆管消失で定義づけられる。年間1-2%の症例に見られ、早期発見、早期治療が重要であるが、 対応が遅れた場合、進行は早く、グラフト不全に陥る。閉塞性動脈病変の形成については,従来ドナー細胞がグラフト内から動脈内腔に遊走するとされてきた が,十分な検討が行われていなかった。我々は、ドナー由来でなくレシピエント由来の間葉系細胞が循環系からグラフト内の動脈内腔に集積することで動脈閉塞 性病変が形成されることを明らかにした。この知見が慢性拒絶反応の病態解明につながる可能性がある。