特別講演 悪性中皮腫の臨床診断
悪性胸膜中皮腫の診断と治療に関する最近の話題
大阪府立成人病センター呼吸器外科 東山 聖彦
かつて中皮腫は稀な腫瘍として扱われてきたが、石綿との関連が指摘されて以降、世界的に発症の増加を認めている。本邦では、本年6月に石綿含有製品を製
造してきたクボタ旧神崎工場による中皮腫発症に関するマスコミへの発表以来、石綿の職業曝露のみならず環境曝露の問題まで発展し、一挙に社会の注目するこ
ととなった。本邦ではすでに中皮腫死亡者数は、年間1000人近くにも急増している。
悪性胸膜中皮腫(MPM)は、その特徴として、1)早期発見が困難で、進行状態で見つかることが多い。2)病理確定診断法が十分に確立されておらず、肺
癌など他の疾患との鑑別がしばしば困難である。3)一般的に内科的治療(抗癌剤など)に抵抗性で、たとえ臨床的奏功がみられても生存期間の延長の寄与は少
ない。4)外科的治療法は確立されていない。たとえ病変が局所的と考えられてもsurgical
marginが解剖学的に十分に取れず局所再発が高率である。4)結果的に、予後は大変不良で、治癒する症例はきわめて例外的である。など、悲観的な面が
多々見られた。
しかしMPMは、最近、検診の普及と画像診断の進歩によりきわめて早期症例が偶然発見されるようになってきた。細胞診および病理診断においても、その形
態的特徴がかなり解明され、しかも多くの期待できるマーカーが開発されてその鑑別診断法が確立されようとしている。一方、治療においても、抗癌剤では
CDDPを中心に、ゲムシタビン、ビノレルビン、CPT-11などいわゆる新規抗癌剤や、さらに葉酸拮抗剤(MTA)との併用が期待されている。外科治療
では、化学療法、放射線療法との併用や導入療法が行われ、その成績向上の兆しが見られる。
厚生労働省は、平成15年より、「悪性胸膜中皮腫の診断精度の向上及び治療法に関する研究」(森永班)のがん研究班を立ちあげ、本疾患の全国実態調査を
行なったり、上記の多くの難題解決に取り組んでいる。一方、当施設では、肺癌に対する抗癌剤のin
vitro感受性試験に基づいた化学療法を行いその臨床的有用性を報告してきたが、本方法をMPMにも応用している。さらに本疾患の胸腔内再発制御を期待
して、胸腔内温熱化学療法(PICT)を術後補助療法として行っている。
本講演では、疫学、臨床診断、治療成績などの最近の話題をはじめ、厚生労働省がん研究班森永班の業績、当施設の治療成績をも含めて、悪性胸膜中皮腫の診
断と治療の概要を述べたい。