京大病院における悪性中皮腫症例調査(1995-2003年)について
河野 文彦、北市 正則、真鍋 俊明
アスベストと悪性中皮腫の問題が連日マスコミ報道で大きく取り上げられ、悪性中皮腫に対する意識が全国的に高くなってきている。実際、悪性中皮腫の患者数
は増加傾向にあり、今後も増加していくことが予想される。悪性中皮腫とアスベスト暴露との関連性はこれまでも指摘されてきたが、個々の症例では必ずしも患
者や家族がアスベスト暴露を把握できているわけではない。病理診断を含めた診断も必ずしも容易ではなく、診断がついたとしても劇的に有効な治療法は確立さ
れていないのが現状である。
今回、京大病院(旧京大胸部研病院を含む)における1995年から2003年の9年間の生検標本・手術標本・病理解剖症例を対象として全臓器の中皮腫症例
の検索・検討を行った。悪性中皮腫の疑いもしくは悪性中皮腫と診断されていた症例について再検討をしてみたところ、11例について悪性中皮腫と確認でき
た。病理組織学的診断方法は体腔鏡下生検8例,針生検2例で,剖検2例(針生検と剖検の重複例が1例)であった。中皮腫の原発部位は胸膜9例,心膜1例,
腹膜1例であった。精巣鞘膜の症例は認められなかった。男女比は8:3と男性優位にみられた。診断時平均年齢は59.1歳であった。類上皮型の8例では管
状乳頭型が5例,充実性類上皮型が3例であった。類肉腫型2例はdesmoplastic型とlymphohistocytic
型各1例であった。混合型1例は剖検例で心膜原発で胸膜,肺,リンパ節に転移を認めた。他の剖検例は,右胸膜原発の類上皮型で,両肺,両側の胸壁,肝,心
臓,空腸に浸潤・転移を認めた。
中皮腫で多数を占める類上皮型で病理診断にはcalretininやCK5/6などの免疫染色が有用であった。類肉腫型ではCK7などのケラチンの免疫
染色が有用であった。生検組織で胸膜中皮腫9例において浸潤性について検討したところ、胸壁組織への浸潤(n=4),
胸膜斑への浸潤(n=1)を含めて5例で確認できた。他の4例では中皮系細胞増生所見と合わせて生検から数年以内の死亡(n=3),
肉腫型の胸膜生検所見での線維化病変の層や向きが多様であること(n=1)から中皮腫と判断した。胸膜生検での中皮系細胞の浸潤性を確認することが悪性中
皮腫と反応性中皮との鑑別や中皮腫のstagingにおいて重要である。中皮腫で多数を占める胸膜中皮腫の病理診断では検体内に胸壁組織が同時に採取され
ていない場合もあり、そのような場合を含めた病理組織学的所見の把握の仕方が今後の課題の一つである。