肺腺癌の分類
神戸大学医学部附属病院病理部 大林 千穂
浸潤前病変・上皮内癌・早期癌
癌の原発臓器での進行度pTの判定は大きさ、深達度で評価される臓器が多い。肺では壁構造を持つ太い気管支に生じた扁平上皮癌の場合には上皮内癌
pTisは定義されており、消化管に類した深達度の評価もある程度可能である。しかし肺癌の大部分は細気管支・肺胞領域に生じるのであり、深達度の評価は
不可能である。現在のところ腫瘍径がpT評価の基本である。しかし1cm以下でもリンパ節転移を示す症例もあり、早期癌の診断基準として大きさのみでは不
十分である。特に腺癌においては扁平上皮癌ほど決定的因子ではないとされている。我が国において早くから注目されていた異型腺腫様過形成 (AAH)
は前癌病変として捉えられており、WHO分類(1999,
2004)では扁平上皮の異形成・上皮内癌(CIS)、びまん性特発性肺神経内分泌細胞過形成と並んで浸潤前病変としてあげられている。AAHはしばしば
限局した粘液非産生型の細気管支肺胞上皮癌
(BAC)との鑑別で病理医を悩ませる。AAHもBACも肺胞壁構造を保ちつつ壁に沿って増殖するもので、核異型や細胞密度などが鑑別となるが両者の明確
な線引きは難しいのは扁平上皮の異形成・CISと同様である。既存の肺胞上皮を置換して増殖する限りBACは上皮内腺癌とも言えるが、WHO分類では「間
質、血管、胸膜への浸潤が明らかでない腺癌」と慎重に記述しており、上皮内癌とは表現しておらず、扁平上皮のCISと異なり、あくまでも腺癌の亜型として
扱われる。放射線科医が淡く小さな病変を見つけ出し、外科医が縮小手術へと向かう。このような流れの中で、大きさや単純な組織型だけではない、予後の評価
に結びつく病理診断が求められている。
肺腺癌の組織分類
このような状況を背景に予後と相関があり、CT像とよく一致する野口分類は臨床医の理解を得て、広く受け入れられた(Cancer 1995;
75:2844-52)。この分類方法は下里らの細胞型分類と共通するところがある。下里らは腺癌組織を正常肺に見られる腺系上皮の何れに類型を求められ
るかに着目し,細胞型分類を試みた。野口らは直径2cm以下の小型腺癌を、肺胞上皮を置換しながら増殖する置換型の3型と非置換型の3型の合計6型に亜分
類した。野口分類ではC型に、WHO分類では混合型腺癌に腺癌の診断症例が集中することが問題となっている。混合する亜型の種類や比率は種々であり、当然
予後のばらつきがある。腫瘍内でBACの占める率や,腫瘍中心にみられる線維化した部分の大きさや率が予後と相関するとされる。実際に肺腺癌を診断する上
ではBACと混合型腺癌の鑑別点となる間質浸潤や乳頭状増殖の評価、分化度の評価、充実型の位置付け、腺房型と乳頭型の区別などが問題点と感じられる。