子宮内膜原発漿液性腺癌の病理とそのトピックス
国立病院機構 名古屋医療センター研究検査科 森谷鈴子
子宮内膜癌は、その大部分を占める類内膜腺癌と非類内膜腺癌の2つに大きく分類される。前者はその発生にestrogenが関与し、病巣周囲に内膜増殖症
を伴うことが多い。後者は萎縮内膜を背景に発生することが多く、類内膜腺癌に比して aggressive
な臨床経過をとる。非類内膜腺癌の中で最もよく遭遇するのが漿液性腺癌である。
漿液性腺癌は内膜癌全体の10%以下で、平均年齢は類内膜腺癌より5〜10才程高齢である。複雑な乳頭状構築やスリット状の腺管構造が特徴的で、N/C比
の高い異型の強い細胞から構成される。小さな生検検体では漿液性腺癌の診断は困難なことが多いが、腺管乳頭状構造がよく形成され、充実性成分がほとんど無
いのに細胞異型が異様に強い場合には漿液性腺癌を積極的に疑うべきである。
漿液性腺癌ではしばしば子宮の腫大や内膜肥厚といった肉眼的異常を伴わないことがある。このような場合でも病変が予想外に拡がっていることがあるので注意
が必要である。また、内膜ポリープの一部に微小な漿液性腺癌が存在していることもある。高齢者の内膜ポリープでは、複数の組織切片を作成して丹念に組織像
を検討する必要がある。
最近、漿液性腺癌の前駆病変としての endometrial intraepithelial carcinoma (EIC)
に関する知見が蓄積されてきた。EICは核クロマチンの増量した極めて異型の強い上皮が萎縮性内膜の表層部や内膜腺を置換する病変で、しばしば明らかな漿
液性腺癌に接して見られる。EICが漿液性腺癌を伴わずに単独で存在する場合もあり、この場合内膜ポリープの一部に見られることが比較的多い。
類内膜腺癌と異なり、漿液性腺癌ではたとえ内膜に限局していても腹腔内に癌細胞が拡がっていることあり、再発や腫瘍死も来たしうる。更にEICでも腹腔内
に腫瘍が及ぶ例が報告されてきている。腹水細胞診にて腺癌が認められ、画像診断によっても原発となりうる病巣が検出できない症例に遭遇することがある。こ
のような場合、一般には卵巣や卵管の微小な腺癌や腹膜原発腺癌の可能性が疑われるが、子宮内膜の occult
な漿液性腺癌の可能性も鑑別に挙げる必要がある。このような状況下で摘出された子宮の内膜領域は、多数の組織切片を切り出して検討する必要がある。
子宮内膜原発漿液性腺癌およびEICでは90%程度の症例でp53蛋白の免疫染色が強陽性となる。小さな生検検体で類内膜腺癌との鑑別に迷う場合や、漿液
性腺癌類似の良性病変との鑑別にp53免疫染色は非常に有用である。