EBER ISHを含んだ病理診断 -免疫血管芽球型T細胞性リンパ腫を例に-

京都大学医学部附属病院 病理診断部 羽賀 博典



 EBERは,EBVが潜伏感染時に産生する小RNAである。EBERは in situ hybridization (ISH)で免疫染色より簡便かつ鋭敏にEBV感染細胞が染色できるため,EBV潜伏感染が関与する腫瘍や疾患の同定に有用である。
しかしEBER ISHは,試薬の値段が高い,保険点数がとれないなどの理由からあまり普及していない。類似の関係はEBV DNAの定量法であるreal-time PCRと従来のEBV抗体価測定との間にも見られる。

 京都大学病理診断部ではEBER ISHを1993年より導入し,これまで主に臓器移植後に発生するリンパ増殖疾患 (PTLD)の検討に用いてきた。肝・小腸移植で発生するPTLDのほとんどがEBV関連であり,EBER ISHは疾患の確定,clonalityの推定に有用であった。

 最近では免疫抑制剤の進歩とEBVのreal-time PCRの普及により,PTLDは減少傾向である。一方,膠原病の加療中,加齢といった臓器移植以外の免疫抑制状態に関連したリンパ増殖性疾患に遭遇する機 会が増えている。このためPTLDに限らずEBER ISHを活用することで日常のリンパ増殖性疾患の診断が容易になることが期待される。

 今回はEBER ISHが有用なリンパ増殖性疾患として免疫血管芽球型T細胞性リンパ腫 (AILT)を取りあげた。AILTは30年以上前にangioimmunoblastic lymphadenopathy with dysproteinemiaとして記載され,2001年のWHO分類では独立した疾患単位として扱われている「古典的」なリンパ腫である。AILTは多 彩な臨床像,組織像を呈すため,時に診断が困難である。腫瘍細胞の特徴 (淡明な細胞質,CD4陽性, CD10陽性)と間質細胞の特徴 (細静脈, 樹状細胞)を理解するだけでなく,EBV感染細胞が出現すること知っておくことがAILTの診断上有用であると考えたので1例を呈示する。