653:特異な経過をとり腎移植後脾動脈瘤破裂にて死亡した腎嚢胞性疾患の一例
田附興風会北野病院(1)、京都大学病理系(2)、大阪大学泌尿器科(3)、大阪歯科大学口腔病理学 (4)
鷹巣晃昌1)、香月奈穂美1当時)、田中麻里1)、塚本達雄1)、武曾恵理1)、原 重雄2)、高橋 玲2)、高原史郎3)、和唐雅博4)
【症例】20歳代後半,男性
【主訴】腹痛
【既往歴】特記すべきことなし
【家族歴】母方叔母が血液透析中.母方父,兄,姉二人が多発性嚢胞腎.
【現病歴】
早期透析導入まで
10歳頃から血小板減少にて当院小児科外来通院.脾腫あり.血小板は最低で2-3万.PAIgG250前後で経過観察.当時から右腎嚢胞と尿潜血を認めて
いた.中学校入学頃より尿蛋白出現.その後,20歳頃まで徐々に腎機能悪化したため,腎内紹介.腎生検で多発性嚢胞腎と膜性糸球体腎炎の合併と診断した.
画像上,著明な脾腫とsplenorenal
shuntがあり,肝生検と骨髄検査からITPではなく先天性肝線維症による脾機能亢進症と診断した.その後腎内で血圧管理や食事療法を行っていたが徐々
に腎不全が進行.腎内受診後1年で尿毒症症状出現したので血液透析導入.以後週3回透析としたが精神状態悪化し,透析回数に影響した.
ABO不適合腎移植
本人および家族の希望あり,某大にて肝腎同時移植の検討がなされたが,肝機能は比較的維持されているため腎移植のみの適応とされた.このため阪大泌尿器科
受診し,1年半前に父親をドナーとするABO不適合腎移植を受けた.移植前に血漿交換および摘脾の予定であったが,門脈圧亢進症のためリツキシマブによる
B cell
depletionを行った.移植導入は他にステロイド,プログラフ及びマイコフェノール酸にて行われた.移植腎生着当初は,某院にて経過観察されていた
が,移植後半年本院腎内へ転院.移植後の腎機能および糖尿病治療を続けた.
腹腔内出血
移植後1年頃,朝から腹痛あり.徐々に増強.午後5時頃に腹痛増強,排便後に意識消失して倒れている処を母親に発見され,当院へ緊急搬送された.CTや試
験穿刺により腹腔内出血と診断されたが,血管造影準備中にショック状態となりMAPを急速輸血.腹腔動脈造影で巨大な脾動脈瘤を認め,CTでの血腫に一致
することから,脾動脈瘤破裂による出血と診断した.脾動脈にCoiling後病棟入室するも,高カリウム血症出現,心電図上VFから心停止となった.
循内で心臓Pacingなど行うも,効果なく7時10分死亡を確認した.
剖検および組織診断の結果,以下のように診断した.
【主な病理解剖診断】
1.ネフロン癆−髄質嚢胞腎症候群疑い(左:105g;右:165g )
皮髄境界部を主に多発腎嚢胞形成、(ADPKDやARPKDと異なる)
Tubulointerstitial nephritis [腎不全] (HP; 図1, 図2)
2.先天性肝線維症並びに門脈形成不全症(肝:950g) (HP, 図3a, 図3b)
門脈圧亢進症、胃食道静脈瘤、慢性脾鬱血(565g)
3.脾動脈瘤破裂(直接死因、腹腔内大量出血7L) (HP, 図4)
4.糖尿病(免疫抑制剤による?遺伝的負荷による? 膵:88g)
膵ラ島硝子化(? B細胞減少、A細胞増加) (HP, 図5)
5.腎移植後状態(移植腎:172g, [血液型不適合腎移植]、
免疫抑制剤による腎障害[軽度]、軽微な拒否反応(T細胞巣状浸潤))
6.免疫能低下状態(リンパ節および脾、B細胞系機能低下, 免疫抑制剤による)
7.消化管巨大ひだ形成(特に十二指腸・空腸,門脈圧亢進症による?奇形?)
8.二次性上皮小体肥大(4腺とも、径7-8mmまで, 腎不全による)
【配布標本】患者腎(1),肝(2),膵(3)
【問題点】
1. 患者腎および移植腎の診断について
2. 肝所見と脾動脈瘤の関連について
3. 膵ラ島の所見について
【画像】
図1.向かって左から,患者左腎(105g),右腎(165g),移植腎(172g)
図2.患者腎組織像(PAS染色)
図3a, 図3b.剖検肝(950g)
図4.脾動脈瘤
図5.膵ラ島組織像