C型慢性肝炎の免疫病態と今後の治療


大阪大学大学院消化器内科学
林 紀夫


 我が国における肝癌の発生は年間4万人を超えており、2015年までは肝癌の発生がさらに上昇を続けることが予想されている。このような背景から、21世 紀初頭の肝疾患の診療は引き続きウイルス性肝炎→肝硬変→肝癌というsequentialな病態をどのように制御するかを中心に展開することが予想される が、肝癌の約80%はC型肝炎ウイルス(HCV)感染が原因と考えられるので、最も重要なのはHCVの制御である。全世界に約2億人のHCVキャリアが存 在しており、C型肝炎を基礎疾患とした肝疾患の病態の解明および治療法の開発は急務である。

 これらの病態を考える上で最も重要なのは、HCV持続 感染メカニズムを明らかにすることである。樹状細胞(DC)は生体において最も強力な抗原提示細胞であり、ウイルスに対する免疫反応の賦活や調節を行って おり、この機能障害がHCV持続感染に関与している可能性がある。DCにはmyeloid DC(MDC)とplasmacytoid DC(PDC)のsubsetsがあるが、C型慢性肝炎患者ではMDC、PDCとも機能的に障害されており、自然免疫および獲得免疫とも十分に機能してい ない。DC上にはNK細胞活性化に重要な役割を果たすリガンドであるMICA/Bが発現しているが、C型肝炎患者DCではMICA/Bの発現が健常者に比 較して抑制されており、NK細胞機能は障害されている。また、NKT細胞はTh2サイトカイン産生能が亢進しており、肝臓での抗炎症や線維化促進に関与し ている可能性がある。

 C型慢性肝炎の治療はインタ-フェロン(IFN)治療にはじまり、IFNとribavirinの併用療法の登場により治療効 果は大幅に改善された。IFN製剤は半減期が約8時間と短く、通常毎日あるいは2日に一回の投与が行われているが、Peg製剤ではポリエチレングリコ-ル のような大きな分子を薬剤につけることにより、投与が1週間に一度でよいというメリット以外に、通常型のIFN製剤より治療効果が高いことが欧米の臨床試 験により明らかにされている。2004年12月からPeg-IFNとribavirinの併用療法が本邦でも可能となり、遺伝子型1型で高ウイルス量の最 も難治例でも約50%の例でウイルスの排除が得られるようになった。しかし、まだ著効率は約50%であり、残りの難治症例に対する対策を急ぐ必要がある。 現在、HCV遺伝子のプロテア-ゼやポリメラ-ゼに対する阻害剤の開発が世界中で行われており、一部の薬剤に関してはすでに臨床試験も行われており、 Peg-IFNとの併用など今後の展開が期待される。本講演では、C型肝炎の免疫病態とIFN治療の現況および将来展望について述べたい。