IgG4関連肝胆道疾患とPSCの病理
金沢大学医学部附属病院病理部
全 陽
日本のPSCの特徴
原発性硬化性胆管炎(PSC)は本邦ではまれな胆道疾患であるが、近年注目を集めて
いる。欧米ではPSCは若年者に多く、炎症性腸疾患の罹患率が高い。一方、本邦のPSC全国調査によると、日本のPSCは若年者と中高年の二峰性の年齢分
布を示し、中高年の症例群には、欧米には存在しない日本に特有の症例が含まれているとの指摘があった。近年、その中高年のPSCでは膵炎(自己免疫性膵
炎)の合併例が多いことが分かり、中高年のPSCは古典的PSCではなく、自己免疫性膵炎に関連したIgG4関連の硬化性胆管炎が含まれていることが明ら
かとなりつつある。
自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎
自己免疫性膵炎患者で血中IgG4値が特異的に上昇することが報告された。その後、
自己免疫性膵炎の組織中にIgG4陽性形質細胞の浸潤が多数見られることが明らかとなり、自己免疫性膵炎ではIgG4に関連した免疫応答が病態形成に関与
していると考えられている。IgG4は健常人では全IgGの6%以下を占める最もマイナーなサブクラスであるが、自己免疫性膵炎患者ではその比率が高くな
り、全IgGの40%を占めるまで上昇することもある。
自己免疫性膵炎では高率に胆管炎を合併することが知られており、胆管にも膵と同様の密なリンパ球・形質細胞浸潤、線維化、閉塞性静脈炎が見られる。ま
た、IgG4陽性細胞の多数の浸潤がみられることも分かっている。膵炎を合併して発症する症例が多いが、膵炎消退後に異時性に発症する症例や、膵炎の合併
がなく、胆管炎のみで発症する症例もあり、そのような症例ではPSCとの鑑別が困難となる。この胆管炎は自己免疫性膵炎関連胆管炎、自己免疫性膵胆管炎、
IgG4関連硬化性胆管炎など、いくつかの名称で呼ばれている。
PSCとIgG4関連硬化性胆管炎の鑑別
1) 臨床的鑑別点
2) 病理学的鑑別点
PSCとIgG4関連硬化性胆管炎は異なる組織像を示し、病理学的にも鑑別可能であ
る。その違いを以下に示す。また、IgG4関連硬化性胆管炎は限局性の病変を呈し、腫瘤性病変(偽腫瘍)を形成することが多い。そのため、臨床的には
IgG4関連硬化性胆管炎は胆管癌と誤認されることが多い。両者の鑑別は臨床的に非常に重要であり、そのストラテジーに関しては今後の課題と思われる。
参考文献
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