胆管IPMN


金沢大学医学部附属病院病理部 
全 陽



胆管IPNの疾患概念

 膵臓では粘液産生性膵腫瘍からintraductal papillary mucinous neoplasm(膵IPMN)の疾患概念が確立され、世界的に受け入れられている。膵IPMNは膵管内の乳頭状増殖、粘液の過剰産生、胃腸型の粘液形質 の発現(MUC2、CDX2)、粘液癌の合併を特徴とする。一方、胆管にも膵IPMNと類似の腫瘍が発生することが報告されている。2000年、Kim, et alは内視鏡所見の観点から、胆管に発生した膵IPMNと類似の腫瘍を報告した(Endoscopy 2000;32:389-93)。2001年、我々は肝内結石症に膵IPMNと類似の腫瘍が発生することを病理学的に報告した(Hepatology 2001;34:651-8)。さらに、2004年、粘液産生性胆管腫瘍が膵IPMNの胆管カウンターパートとなる可能性が報告された(Am J Surg Pathol 2004;28:327-38)。

 これらの胆管腫瘍の共通の病理学的特徴は、膵IPMNと同様に、胆管内乳頭状増殖、 粘液の過剰産生、胃腸型上皮の形質発現(MUC2、CDX2、CK20)が挙げられる。また、浸潤癌に進展すると、通常型腺癌以外に粘液癌を合併する症例 がある。粘液癌合併例では通常型腺癌合併例に比して、術後の予後が良い。これらの胆管系腫瘍は膵IPMNに比較すると粘液過剰産生を示す症例の割合が低 く、我々はintraductal papillary neoplasm of the bile duct(胆管IPN、IPNB)と呼称している。


胆管IPNと胆管嚢胞性腫瘍

 WHO 分類によると、胆管嚢胞性腫瘍は胆管拡張を示す先行病変がない嚢胞状腫瘍と定義されている。膵の粘液性嚢胞腫瘍のように、卵巣様間質の有無は定義に含まれ ていない。胆管との交通のある胆管嚢胞性腫瘍と卵巣様間質のある胆管嚢胞性腫瘍を比較すると、その臨床病理学的特徴(性別、良悪性、大きさ)が異なってい た。また、胆管と交通のある嚢胞性腫瘍は胆管IPNと類似の病理学的特徴を有しており、胆管と交通があり卵巣様間質のない胆管嚢胞性腫瘍は胆管IPNの一 型と考えられる。

 

胆管IPNと膵IPMN

 胆管IPNと膵IPMNには多くの共通の病理学的特徴がある。管腔内乳頭状 増殖と粘液の過剰産生を特徴とし、しばしば多発病変を形成する。浸潤癌を合併すると、通常型腺癌以外に粘液癌を合併することがあり、その組織型が術後の予 後に影響する。また、腫瘍細胞の形態によりpancreaticobiliary type, intestinal type, gastric type, oncocytic typeの4型に分類できる。一方、胆管IPNと膵IPMNにはいくつかの病理学的な違いがある。胆管IPNでは膵IPMNに比して粘液の過剰産生を示す 症例の頻度が低い。また、胆管IPNはgastric typeの頻度が低く、CK20陽性率が高い。しかしながら、これらの差異は膵IPMNの分枝型に起因するものが多く、もし胆管IPNを膵IPMNの主膵 管型と比較するとその特徴はよく一致する。胆管IPNは主膵管型IPMNの胆管カウンターパートと位置づけることが可能と思われる。