NASHの臨床



奈良県立医科大学第3内科  
植村正人


 近年、生活習慣の変容により、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の割合が急速に増加してきており、一部は肝硬変、肝癌へと進展する非アルコール性脂肪性 肝炎(NASH)へと進展する。今回、検診例でのNAFLDの現況を交え、NASHとアルコール性肝障害ならびにsimple steatosisの異同を対比検討するとともに、原因不明肝硬変との関連についても検討を加えた。

 当科関連の検診施設を2004年度に受診した 6236名(男性:3537名、女性:2699名)中、NAFLDは男性310名(8.8%)、女性73例(2.7%)であった。男性は40歳代で最も高 率であるのに対し、女性は年代とともに高くなる傾向がみられ、50歳代から急激に上昇した。男性は女性に比しALTが高値であり、女性は高血圧の合併が半 数にみられ、NAFLDの病態に性差がみられた。また、1993年度と10年後の2003年度の両者に受診した1296名中、1993年度にNAFLDと 診断された受診者は120名(9.3%)であったのに対し、2003年度には296名(22.8%)と2倍以上に増加していた。

 次に、NASHと アルコール性肝障害(ALD)の異同を検討するために、組織学的に診断されたNASH26例とALD26例(肝線維症17例、肝硬変9例、うちアルコール 性肝炎合併11例)を対比した。NASHはALDに比し、アルコール性肝炎合併の有無に関わらず、総コレステロール、コリンエステラーゼは高値であり、 AST/ALT比、γ-GTPは低値であった。NASHはALDに比し、Liver/Spleen比は低値で、内臓脂肪面積は高値であった。この際、 NASHにおいてのみ、内臓脂肪面積はALTおよびHOMA-IRと正の相関がみられた。なお、NASHのstageが進行するにつれて血小板数は低下 し、ヒアルロン酸は高値であった。肝組織所見では、NASHはALDに比し、脂肪化の程度および核空胞化が高率であったが、好中球浸潤、 balooning, 線維化および壊死炎症の分布、程度には差は見られなかった。肝組織の鉄の染色性はアルコール性肝炎の有無に関わらず、NASH はALDに比し低率かつ軽度であった。脂質過酸化のマーカーである3-nitrotyrosineの染色性はNASHはアルコール性肝炎非合併ALDに比 して高率、高度であったが、アルコール性肝炎合併ALDとほぼ同等であった。

 次いでNASHにおける酸化ストレスおよびミトコンドリア障害を検討 するために、NASH26例、simple steatosis 11例、健常者10例を比較した。酸化ストレスマーカーである尿中8-isoprostaneは健常者に比し高値であったが、抗酸化マーカーである血漿グ ルタチオン濃度は両者で差を認めなかった。この際、NASHにおいて、尿中8-isoprostaneはALTと正の相関、Liver/Spleen比と 負の相関関係にあった。また、3-nitrotyrosineの染色性はNASHはsimple steatosisと同率、同程度であり、simple steatosis肝もNASH肝と同様に酸化ストレス下にあることが示唆された。血清ミトコンドリアAST濃度は、NASH はsimple steatosisに比し高値であり、尿中8-isoprostaneと正の相関関係がみられた。肝のミトコンドリア染色ではNASH肝では、 simple steatosisに比し、染色率が高率で、染色強度も高度であり、NASHにおけるミトコンドリア障害と酸化ストレスとの関連が示唆された。

 原 因不明肝硬変とNASHとの関連を検討するために、肝硬変652例中、原因不明肝硬変29例(4.4%、男性/女性=15/14、平均年齢58±12才) を、年齢、性別、Child-Pugh scoreをマッチさせたウイルス性肝硬変72例と対比した。原因不明肝硬変はウイルス性肝硬変に比しBMI25kg/m2以上、内臓脂肪面積が 100cm2以上、II型糖尿病の症例が高率であり、HOMR-IRが高く、中性脂肪が高値であった。多重ロジステイックモデルにより、糖尿病 (HBA1c 6.0%以上)、肥満(BMI 25kg/m2以上)、ALT低値(40IU/l以下)が原因不明肝硬変を特徴づける因子として抽出され、原因不明肝硬変の一部にNASHからの進展例が 含まれる可能性が示唆された。

 以上、NAFLDは近年着実に増加していること、NASHではALDに比し過栄養状態にあり、内臓脂肪の多寡が肝の 壊死・炎症、インスリン抵抗性と関連すること、さらにNASHにおける過剰な酸化ストレス状態が肝の炎症ならびに脂肪化の程度と関連しており、 simple steatosisに比しミトコンドリア障害が高度である可能性が示唆された。また、原因不明肝硬変の一部にNASHからの進展例が含まれる可能性が示唆 された。