近年、大腸癌肝転移に対し、fluorouracil(5-FU)/leucovorin(LV)療法にirinotecan(FOLFIRI)あるいは
oxaliplatin(FOLFOX)を併用することにより、従来切除不能であった肝転移を伴う症例の約15%に
down-stageが得られ、肝転移巣切除後5年生存率が約40%と最初から切除可能であった例と遜色のない生存率が得られるようになってきた。ところ
が、5-FU単独あるいは5-FU/LV療法時には問題にならなかったirinotecanあるいはoxaliplatinによると考えられる薬剤性肝障
害が指摘されるようになってきた。組織学的にsteatosis, 類洞の拡張、うっ血、中心静脈あるいは類洞周囲の線維化といった変化を示すとされる。 当 院で大腸原発巣切除後、肝転移巣に対し化学療法を施行し、切除可能かどうかの評価のため術前肝生検された4例について組織学的変化と肝機能について検討し た。M:F=3:1, 40-76歳、単発肝転移2例、多発2例、化学療法レジメはFOLFIRI 2例、FOLFOX 1例、両者併用1例であった。いずれも転移巣の縮小が得られ、1例で肝転移巣の完全切除を行い、1例は切除予定である。1例は化学療法に伴う残肝機能低下 が危惧され、1例は後に判明した肺転移のため肝転移巣の切除を断念した。非腫瘍部の肝生検で5-30%の steatosis, 部分的なうっ血、類洞の拡張、軽度の類洞周囲の線維化を認めた。切除を断念した1例では、広い範囲でうっ血、類洞の拡張、30%のsteatosis、中 心静脈、類洞周囲の線維化を伴い、NASHと考えられる変化が見られた。評価の肝生検後、1-2週間隔で再生検あるいは摘出肝が得られた2例で組織学的改 善は見られなかった。 今後、臨床から組織評価を求められる機会が増加すると予想されるが、非特異的な所見を示すことが多いため、臨床情報を把握し、irinotecanあるいはoxaliplatinによる薬剤性肝障害を念頭に置いて、所見をとらえる必要があると思われた。 |