NASHの病理



大阪市立大学大学院医学研究科診断病理学(附属病院病理部)
 若狹 研一


 非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease, NAFLD)はメタボリックシンドロームの肝臓における現われとして注目されている。NAFLDはこの20年ぐらいの間に急に増加し、21世紀のもっとも 代表的な肝疾患としてウイルス性肝炎にやがては取ってかわると考えられている。NAFLDは単純性脂肪肝(simple steatosis, nonalcoholic fatty liver, NAFL)からnonalcoholic steatohepatitis (NASH) までを含む幅広い概念である。NASHは良性、可逆性のNAFLにsecond hitの傷害が加わることにより発生すると考えられている。これまでcryptogenic cirrhosisと考えられていた原因不明の肝硬変のほとんどがNASHであるという論文が出される等、NASHはこれまで考えられていたほど予後の良 い疾患では無い事が明らかになりつつある。したがってNASHの肝硬変に至る前の早期の適切な診断は非常に重要である。このNASHをNAFLから区別し て診断するのは臨床的には難しく、肝生検のみにより、確実に診断することができる。当然のことながら典型的な症例では診断が容易であるが、ごく初期の症 例、逆に進行して肝硬変が完成した症例(burned out NASH)においては診断は困難である。典型例においては#1. 肝細胞の脂肪化、#2. 肝細胞の水腫状変性(ballooning)、#3. マロリー体、#4. 好中球を含む炎症細胞浸潤、#5. 線維化がみられ、これらはzone 3において高度な傾向がある。

 NASHの病態についてはまだまだ不明の点が多いが、徐々に明らかになりつつあり、無治療で放置すれば、進行性であることを受けて、ウイルス性肝炎と同じ く、肝生検組織像からstaging、gradingを行うことも提唱されている。またNAFLからNASHへのsecond hitの本態が酸化ストレスであることも明らかになりつつある。

 講演ではNASHの病態と肝生検の役割、診断において注意するべき事等について述べる。