日本病理学会近畿支部第36回学術集会 検討症例



668:慢性肺動脈血栓塞栓症の一例

国立循環器病センター 臨床検査部病理
池田善彦、植田初江

【症例】50歳代前半、女性
【主訴】労作時呼吸困難
【既往歴、家族歴】:特記すべき事なし
【現病歴】
7年前に咳嗽、胸水貯留にて近医入院。胸水細胞診でclass Vであったため、開胸肺生検術施行されるが、右下葉梗塞の診断。以後抗凝固剤を投与されたが一年半で中止された。1年前に心雑音を指摘され、近医精査入 院。大動脈弁および肺動脈弁逆流症の診断にて、心不全に対する治療が行われたが、労作時呼吸困難増悪傾向のため他院へ転院。肺動脈造影では以前と比較し、 両側肺動脈内の血栓像は増加していた。下肢静脈造影では深部静脈血栓症を疑う所見は認められなかったが、予防的に下大静脈フィルターを留置。心エコーでは 肺動脈弁と主肺動脈内に疣贅様の可動性に富む血栓を認めた。肺動脈内腫瘍塞栓の疑いあり、精査、加療目的にて当センターに入院。MRIでは主肺動脈から右 肺動脈の背側と肺動脈弁直下に血栓を認めた。入院後、肺高血圧症および低酸素血症の進行を認め、手術施行。術中所見では、肺動脈幹内に腫瘍様の柔らかい塊 状物を認め、肺動脈弁、内膜とともに可及的に摘除。両側肺動脈も内膜摘除されたが、術後も補助循環を離脱できずに永眠された。
【配布標本】肺動脈幹内膜摘除検体
【配布標本の病理組織学的所見】
alcian blue陽性のmyxoidな基質を背景に紡錘形から多形性を呈する腫瘍細胞の増殖が認められた。免疫染色ではほとんどの腫瘍細胞でvimentin陽 性、一部でα-smooth muscle actin陽性を示したが、desmin、caldesmon、FactorⅧ関連抗原、CD34、CD68、cytokeratin、 myoglobin、S-100、α1-antichymotrypsinは全て陰性であった。
【問題点】病理組織学的診断

H.E.弱拡 H.E.強拡 肺動脈幹内膜摘除検体
 

669:liposarcoma が疑われた子宮腫瘍

神戸大学医学部外科病理学講座(1)、神戸市立中央市民病院 臨床病理科(2)、産婦人科(3)
榎木 英介1)、宇佐美 悠1)、横崎 宏1)、今井 幸弘2)、白根 博文2)、岡田 悠子3)、北 正人3)

【症例】60歳代、女性
【現病歴】
1年半前から不整出血を自覚するも放置。腹部腫瘤を自覚し、当院受診。来院時、臍高に達する腹部腫瘤を認め、MRI所見で子宮体部癌、肉腫が疑われ、PETにて子宮以外に集積を認めなかった。
単純子宮全摘、両側付属器切除、骨盤、傍大動脈リンパ節廓清施行。退院後外来follow up 中。
【肉眼所見】
子宮は体部、底部が球状に腫大し、割面では子宮腔に充満し、壁にも浸潤する最大径12cmの腫瘍を認めた。一部半透明水腫状、一部不透明で、色は白色から黄白色であった。鶏卵大の壊死巣を一箇所認めた。
【組織所見】
淡染性の紡錘形の胞体を持つ腫瘍細胞が水腫様の間質を伴って増性しており、細胞密度はやや密な部分とやや疎な部分があり、核分裂像が少数散見される。空胞状の細胞が散見され、壊死部には脂肪細胞を思わせる大きな単房性の空胞が散見された。
以上のような所見から暫定的にliposarcoma と診断して追加検索中であるが、子宮のliposarcoma はまれな腫瘍とされ、鑑別すべき腫瘍、鑑別点を含めてご教示いただきたく、提示する。
 

670:左卵巣腫瘍の一例

京都大学医学部付属病院病理診断部
小原詠水、三上芳喜、真鍋俊明

【症例】70歳代前半、女性
【既往歴】30歳代前半、虫垂炎にて虫垂切除術施行。50歳代後半、子宮筋腫にて単純子宮摘出術施行。
【現病歴】
腹痛のために近医受診した。骨盤腔内に存在する腫瘍を指摘され、紹介された。MRIにて骨盤腔内に8×10cmの多房性嚢胞性病変が認めら れ、卵巣由来の腫瘍である可能性が考えられたため、両側子宮付属器摘出術施行された。術中の観察では、腫瘍は左卵巣より発生したものであることが確認され た。最大径は12cm大で、一部の嚢胞は破綻していた。
【腫瘍マーカー】CA19-9:25.9 U/ml、CA125:89.7 U/ml
【問題点】病理組織学的診断

 

671:右腎腫瘍の一例

京都大学医学部附属病院病理診断部
原田大輔、三上芳喜、藤本正数、宮川文、真鍋俊明

【症例】60歳代前半、男性
【主訴】血尿
【現病歴】
持続する肉眼的血尿を主訴に当院泌尿器科を受診した。腹部CTにて右腎に11×9cm大の分葉状腫瘤が認められた。下大静脈では腫瘍塞栓の存在が示唆されたことから、右腎癌cT3bN0M0と診断し、右腎摘出術を施行した。
【肉眼所見】
右腎中央から下極にかけて11.0 x 11.3 x 10.0cm大の腫瘍が認められた。腫瘍は腹側の漿膜側で肝のS6領域の一部と癒着していた。腫瘍は比較的境界明瞭で黄白色調を呈していたが、もろく、出血・壊死を伴っていた。
【問題点】病理組織学的診断

 

672:右乳房腫瘤の一例

新日鐵広畑病院病理科(1)、外科(2)、三田市民病院(3)、兵庫医科大学病理学第二講座(4)、第一講座(5)
平野博嗣1)、大久保恵理子1)、沖村 明1)、吉村 仁2)、橘 史朗2)、木崎智彦3)、西上隆之4)、中正恵二5)

【症例】50歳代後半、女性
【現病歴】
約1年前に右背部痛にて本院内科受診したところ、CTにて右乳房に石灰化を指摘され、外科受診となった。マンモグラフィーおよびエコーにて18X16mm 大の腫瘤が認められた。その際針生検および吸引細胞診にて明らかな悪性所見が得られなかったため経過観察となった。その経過観察中吸引細胞診にて Class IIIがでたため、患者の希望で今回の生検となった。
【既往歴】20歳代後半 右腫瘤切除術(良性であったということであるが詳細不明)
【配布標本】HE1枚(生検標本)
 
エコー マンモグラフィー ミクロ1 ミクロ2


673:乳腺腫瘍の一例

竹村しづき(1)、森谷鈴子(2)、萩原恭史(1)、九嶋亮治(3)、蔭山典男(4)、服部隆則(1)
滋賀医科大学病理学講座分子診断病理部門1)、国立病院機構名古屋医療センター研究検査科病理2)、滋賀医科大学医学部附属病院病理部3)、社会福祉法人宇治病院外科4)

【症例】40歳代後半、女性
【現病歴】
右乳房上部(A-C領域境界部)に直径約2cmの腫瘤を認めた。Fibroadenomaが疑われ、切除生検が施行された。
【肉眼所見】
腫瘤の境界は明瞭で割面は白色であった。
【組織所見】
腫瘤の辺縁部は粗造で、全体が紡錘形細胞より構成されていた。腫瘤ではおおよそ二種の組織像が混在してみられた。一つでは細胞密度が低く、やや粘液腫状に見える間質を伴って紡錘形細胞が増生し、もう一つでは好酸性の線維成分を伴う紡錘形細胞が束状に交錯し増生していた。
【配布標本】乳腺腫瘤
【問題点】病理組織学的診断、鑑別診断、悪性度、追加治療