稀な卵巣 sex cord/stromal tumor: 3症例の提示
大阪赤十字病院 病理部
新 宅 雅 幸
卵巣 sex cord/stromal tumor のカテゴリーにはかなり多種類の腫瘍が含まれるが、fibroma
を除けば日常的に遭遇する機会は少い。その病理については森浩志先生による綜合的な解説がなされるので、小生はその落穂拾いとして、稀な3つの腫瘍型につ
いて自験例を提示して簡単に説明を加えたい。
1.Ovarian stromal tumor with minor sex cord elements
1983 年に Young & Scully
により報告された腫瘍で、一見 fibroma もしくは thecoma の組織像を示すが、その内部に少量の sex cord element
を含むものである。Sex cord element は granulosa cell もしくは Sertoli cell
類似の像を示す場合もあるが、どちらともつかない未分化な像を示すことも多い。予後因子としての臨床的意義は乏しい所見であるが、これら sex
cord element が真の腫瘍性性格を有するか否かは未解決の問題であり、pathogenesis を考察する上で興味深い腫瘍である。
2.Sclerosing stromal tumor
1973 年に Chalvardjian & Scully
により報告された腫瘍で、組織学的には、細胞成分に富む部位と細胞成分に乏しく強い浮腫を示す部位とが混在して、特徴的な
“pseudolobulation” の像を示す。腫瘍細胞は類円形もしくは紡錘形で、細胞質内に lipoid
を含む。”Staghorn appearance”
を示す小血管の増生も見られる。術中迅速診断では転移性腺癌との鑑別が問題となる場合があり、注意が必要である。腫瘍細胞による steroid
合成能が証明されているが、臨床的に内分泌症状を示すことは稀である。現在まで悪性化例の報告は無い。
3.Sex cord tumor with annular tubules
1970 年 Scully が記載した腫瘍で、Peutz-Jeghers
症候群に見られる場合と、孤発性に見られる場合とがある。前者では腫瘍は小型、両側性、良性であるが、後者では片側性で大きな腫瘤を形成し、悪性経過をと
る場合がある。組織学的には、腫瘍胞巣の辺縁に沿って、また胞巣中心部に存在する硝子様物質の周囲に円柱状腫瘍細胞が配列して、輪状細管
(annular tubules) と呼ばれる特徴的な構造を形成する。組織起源については granulosa cell 由来説と
Sertoli cell 由来説があって、未だ決着していない。