卵巣腫瘍:性索・間質性腫瘍



大阪医科大学・病理学Ⅱ
森 浩志

 原発性卵巣腫瘍は、表層上皮性・間質性腫瘍(全卵巣腫瘍の60〜70%)、胚細胞性腫瘍(30%)、性索・間質性腫瘍(6%)とその他(4%)に大別さ れる。このうち、性索・間質性腫瘍の頻度は低く、また悪性腫瘍は少ないが、ホルモンを産生する腫瘍の多いのが特徴である。

 この腫瘍の特性を理解するために、性腺の分化・発育の復習から始めたい。胎生第4週に体腔上皮の限局性増殖によって生殖堤(後の性腺)が形成され、そこ に遊走してきた原始生殖細胞を包み込み、未分化性腺内部へと伸展して生殖索が形成される。生殖索のその後の分化・発達は雌雄で異なるが、精巣の精細管上皮 と卵巣の卵胞上皮(顆粒膜細胞)は相同である。精細管と精細管との間の間質細胞は特殊に分化してライディク細胞となり、アンドロゲンを産生する。卵胞外周 の細胞は卵巣間質細胞が特殊分化して内莢膜細胞となりアンドロゲンを産生する。ただし、このアンドロゲンは血中に入ることなく、直ちにすぐ内側の顆粒膜細 胞に転送されて、エストロゲンに転換される。従って、これらの細胞が増殖/腫瘍化した場合、ときにエストロゲンを、あるいはアンドロゲンを産生して、性早 熟、月経異常、子宮内膜増殖症/内膜癌、男性化や閉経後の若返りなどを惹起することが少なくない。

 性索・間質性腫瘍は、腫瘍細胞の形態や腫瘍の構築が正常な卵巣あるいは精巣の構成細胞のどれに類似しているかによって、(1) 顆粒膜細胞・間質細胞腫瘍、(2) セルトリ・間質細胞腫、(3) ステロイド [脂質] 細胞腫瘍などに分けられるが、日常経験する機会が多いのは (1)のグループの莢膜細胞腫・線維腫群腫瘍(全原発性卵巣腫瘍の5〜6%)と顆粒膜細胞腫(同1〜2%)であり、セルトリ・ライディク細胞腫=アンドロ ブラストーマは稀である。Peutz-Jeghers症候群を合併することで知られる輪状細管を伴う性索腫瘍 (sex cord tumor with annular tubules) などは参考書でしかお目にかかる機会がない。比較的頻度の高い性索・間質性腫瘍の好発年齢、発現ホルモン症状、組織所見などの各論を呈示する。

 老齢動物に自然発生したり、実験的に比較的容易に発生させることのできる性腺の腫瘍は大部分が良性であり、性索・間質性腫瘍が多い。これはヒト性腺腫瘍 に、精巣も卵巣も、悪性が多いのとは対照的である。その実験的腫瘍誘発の古典的手法の一つにBiskind & Biskindの方法がある。精巣を摘除した成熟ラットの脾内に新生仔性腺を移植すると、性腺刺激ホルモンの高値持続によって、脾内移植ラット性腺にヒト 性索・間質性腫瘍に類似する腫瘍を誘発することができる。この腫瘍を観察すると、腫瘍を形態によって細かく分類することの意味に疑問を感じるようになる。