「メラノーマの病理組織診断」

 京都大学附属病院病理診断部

真鍋 俊明

 
 本講演ではメラノーマ(悪性黒色腫)の病理組織診断の仕方について解説する。       [御講演予定稿]

1.    メラノーマの組織診断へのアプローチの仕方

色 素性病変を見た場合には、まずそれがメラノサイト系の腫瘍であることを確認する。次に後天性の母斑細胞母斑を念頭に置いて、その形態を分析していく。も し、これに合致すれば、母斑細胞母斑として、その臨床形態、組織学的存在部位、特殊な形態から見た分類に照らし合わせ、亜分類を行う。もし合致しない場合 には、先天性母斑、Spitz母斑、外陰部の母斑、手掌・足底部の母斑、結合性母斑、再発性ないし 持続性母斑の可能性がないかを考えてみる。そして、年齢に注意を払い、新生児・乳幼児の母斑でないかを考える。これらでないと思われれば、メラノーマの組 織診断の指標をもう一度検索し、最後には該当するメラノーマと鑑別すべき良性の母斑の組織学的鑑別点を振り返り確認し、最終診断に到達するとよい。メラ ノーマであれば、その部位原発のものか転移性のものかを考える。そして、原発性であれば、深達度、その他予後の指標となりうる所見を見る。

2.メラノーマの組織診断の指標

  メラノーマはどこに発生したものであれ、組織学的に同じような指標を用いて診断していくべきであるが、部位や年齢、性別によって多少考慮すべき点が変わっ てくる。すなわち、組織診断は以下に述べる構築的指標と細胞学的指標を確認することによってなされうるが、必ず臨床的・肉眼的所見と照らし合わせて考えて いかねばならず、単一の基準や数個の所見の集まりだけではメラノーマと母斑の鑑別は困難であると銘記しておくべきである。

 まず、メラノーマを二つに分けて捉えておくと良い。すなわち、表皮内メラノーマin situ melanoma (melanoma in situ)と浸潤性メラノーマinvasive melanomaである。前者が進展して後者となることが多いが、後者の症例にも前者の所見が残存していることが多い。

 

 講演では、それぞれの指標の捉え方について解説する。

 

●構築上の指標

6mm以上の病変が多い。

②左右非対称性の輪郭を示す。

③辺縁部の境界が不明瞭である。

④表皮内、付属器上皮層内での孤立性の異型メラノサイトの数が増加している。しかも、胞巣を形成するものよりも孤立性に存在するもののほうが多い。

⑤表皮上層にまで異型メラノサイトが上昇している(ascent of atypical melanocytes)

⑥メラノサイトのつくる胞巣の分布が不均一である。

⑦メラノサイトのつくる胞巣の大きさ、形が不均一である。

⑧メラノサイトのつくる胞巣の形が不整である。

⑨メラノサイトのつくる胞巣が密集する傾向がある。

⑩真皮内に存在する異型メラノサイトに成熟傾向(つまり、真皮深層に下降するにつれメラノサイトの核がだんだんと小さくなる)がみられない。

⑪腫瘤内でのメラニン沈着の分布が非対称性で斑状にみられる。

⑫異型メラノサイトが皮膚付属器上皮層の深部にまで達する。

⑬腫瘍底部にみられる炎症細胞浸潤巣の分布が非対称性で密度も不均一である。

 表皮内メラノーマの診断は①~⑨により、浸潤性メラノーマの診断は①~⑬の指標を参考にしてなされる。構築上の指標は細胞学的指標にまさる。

 

●細胞学的指標

①核異型がみられる。

②壊死に陥ったメラノサイトがみられる。

③ときに広範な壊死層が存在する。

④核分裂像が多くみられる。

⑤核分裂像が腫瘍深部にみられる場合は非常に疑わしい所見となる。

 

 免疫組織学的にS-100蛋白、HMB-45 Melan Aの存在は黒色腫細胞であることの指標となるとされているが、S-100蛋白は良性・悪性であれ他の腫瘍にも陽性となるものが存在し、HMB-45は刺激を受けた非腫瘍性メラノサイトにも陽性になるほか、抗血清によっては腺癌細胞にも陽性となるなど注意を要する。また、腎のangiomyolipomaでの陽性報告もある。一方、メラノーマ細胞はCEAが陽性となることがあることを知っておく必要がある。

 

●誤診を導きやすい所見

 ①メラノサイトの表皮内上昇の所見:メラノサイトの表皮内上昇は表皮内メラノーマ以外でも以下の状態で認められる。

 1) 新生児、乳幼児にみられる母斑細胞母斑

 2) 手掌、足底部の母斑細胞母斑

 3) 若年成人の外陰部にみられる母斑細胞母斑

 4) Spitz母斑

 ②単核あるいは多核の巨細胞性メラノサイトの出現:単核あるいは多核のメラノサイトはSpitz母斑でもみられる。核異型も著明となることがある。

 ③腫瘍の輪郭の非対称性やメラニン色素沈着巣の不均等分布:これらの所見は2種の異なった母斑が合併してみられる結合性母斑でも、いわゆる再発性ないし持続性母斑でも認められる。臨床像、病歴に注意を払うべきである。

 メラニンの沈着が帯状で対称性にみられる場合も母斑では真皮上層部に存在するのに対して、メラノーマでは腫瘍基底部に集まる傾向がある。

 ④小型の細胞からなる:ときにメラノーマは小型の細胞のみからなることがあるので注意する必要がある。この場合、核小体の明瞭さ、多形性、核の大きさ(10μm以上)、核分裂像、成熟傾向の有無や上述の構築上の指標に注意を払う。

 ⑤腫瘍細胞内・外のメラニンの存在とメラノサイトの共生:汗孔腫、脂漏性角化症では腫瘍細胞内にメラニンの存在を認めることがある。


3.メラノーマの臨床型と各臨床型に対応する組織像

 皮膚のメラノーマはかなり多彩であるが、臨床的にいくつかの亜型に分類されている。現在よく使われるClark4大 分類は増殖様式、とくに表皮内での増殖様式、細胞像、周囲健常部皮膚の状態やその存在部位によって決められる。しかし、その識別は必ずしも容易ではなく、 どれにも当てはまらないものや、逆にいくつかのタイプに当てはまりうるものもある。したがって、病理医としては組織学的に表皮内メラノーマと浸潤性メラ ノーマに分け、その他の組織学的特殊型を別個に取り扱っておけばよいと考えられる。4大分類の組織像には確たる特異な所見はないが、ここではその代表的な像を簡単に記載しておく。

 悪性黒子由来メラノーマLMMでは明らかな表皮内黒色腫の像がみられる。表皮は萎縮気味で薄い。円形、類上皮様の細胞に加え、卵円形や紡錘形の細胞が認められる。同様の細胞は真皮内にも認められる。後述するdesmoplastic melanomaと鑑別がむずかしい症例もある。表在性拡大型メラノーマSSMに特徴的な所見は真皮内腫瘍の外縁から3つの表皮突起を越えてなお広がるPaget様の腫瘍細胞の表皮内進展巣が存在することとされている。真皮内では異型類上皮細胞が不規則な索状、結節状の構造をつくったり、あるいは個々に広がっている。初期には真皮乳頭層にとどまるが、やがて真皮網状層、皮下組織へと及ぶ。末端黒子様メラノーマALMでは異型細胞は表皮基底膜に沿って個々に広がり、汗管にまでも進展していく。いろいろな形態を示す異型細胞がみられるが、しばしば樹枝状細胞が目だつ。表皮は棘細胞症や過角化を示すことが多い。結節型メラノーマNMSSMに似る組織像を呈するが、表皮内の外側への進展像はない。腫瘍細胞は類上皮細胞様の形態をとるものが多いが、紡錘形のものもときにみられる。

4.組織学的に特殊な悪性黒色腫

 メラノーマにはいくつかの特殊型が存在する。その存在を知っておく必要がある。

5.メラノーマの深達度判定基準

 悪性黒色腫の予後は原発部位での腫瘍の深達度によって左右されるといわれている。深達度の判定基準をClarkのレベル分類、Breslowの侵襲の厚さの測定、TNMおよび病期分類に分けて、組織診断時には深達度を記載しておくことが望まれる。