Desmoplastic melanoma ― 診断上の注意点
名古屋第二赤十字病院、病理部
都築 豊徳
  Desmoplastic melanoma(以下DMと略す)は悪性黒色腫の亜系の一つであり、高齢者の日光露出部(特に顔面)に好発し、男性優位の傾向を示す。人種的には白人に多く、有色人種ではまれである。従って、日本では経験することが少ない腫瘍と言える。肉眼的にDMは通常の悪性黒色腫とは異なる所見を示すことが多い。褐色もしくは軽度な色素沈着を示す隆起性病変であり、悪性黒色腫で認められるような高度な色素沈着は認められない。時にはDMは紅色性の隆起性もしくは陥凹性形態を示すこともある。従って、比較的経験豊富な欧米でもDMの肉眼診断の正診率は高くないのが実情である。

 組織学的な特徴としては、表皮が肥厚した境界不明瞭な腫瘍病変を形成する、腫瘍の背景に膠原線維の増生が目立つ、腫瘍細胞は紡錘形形態を示 し、細胞異型は余り目立たず、胞体内のメラニン産生は乏しいことが多い。上記の理由のために、腫瘍細胞そのものが認識困難な場合が少なくない。従って、DMが腫瘍とは認識されず、瘢痕組織、nodular fasciitisfibromatosis等と診断されることは少なくない。またDMにおいては、いわゆるmelanoma in situの所見が目立たないことが多く、それ自体が存在しないことも少なくない。また、neurotropismDMの診断上最も有用な所見の一つとされているが、その頻度は決して高くない。悪性黒色腫のマーカーのであるHMB45MelanA/MART1MITF-1等が陽性所見を示すものは半数以下であり、この点もDMの診断が困難となる要因の一つでもある。以上のことから、腫瘍として認識された場合でも、DMは皮膚線維腫、神経性腫瘍、atypical fibroxanthoma等と誤って診断されることが少なくない。

 以上の如く診断が困難な場合が少なくないDMではあるが、その予後は通常の悪性黒色腫と基本的に差はなく、悪性黒色腫の一亜型として、正確に病理診断することが求められる。

 DMの治療成績において、病変部の完全切除の有無は最も重要な項目の一つである。しかしながら、肉眼的にDMの境界ははっきりしないことが多く、病理学的にもDMの断端評価は困難なことは少なくない。従って、断端評価がしばしばunderdiagnosisになっているのが現状である。

 今回、DMの代表的な症例を、日本での症例も含めて、数例提示し、実際にはどのようにして診断を行っていくのかを供覧したい。