― 特別講演 ―             司会:村垣 泰光 先生(和歌山県立医科大学)

「悪性リンパ腫の実態」
大阪大学医学系研究科病態病理学・附属病院病理部
青笹 克之

悪性リンパ腫の分類は変遷を重ねてきた。1942年のGall-Mallory分類に始まり、1966年のRappaport分類に至って、非ホジキンリンパ腫(NHL)はびまん型と濾胞型に分類された。Rappaport分類は臨床医の支持を得て広く使われたが1970年代後半になり、NHLの大半はリンパ球の腫瘍であることが判明したことから、大型細胞の増殖を組織球性(histocytic type)としたRappaport分類を変更する必要が生じた。これを受けてアメリカではWorking Formulation,ヨーロッパではKiel分類が用いられるようになってきた。この両分類とも”histiocytic”という語を用いなくなったものの、リンパ腫を形態所見のみによって分類するものであった。1988年にリンパ腫を免疫学的特性(B,T細胞性)によって分類するupdated Kiel分類が提唱され、世界中で支持を受けた。このupdated Kiel分類を基盤として、1994年にRevised-European-American Lymphoma(REAL)分 類が提唱された。この分類はこれまでの分類が形態所見に偏重していたため、各疾患診断の再現性が乏しいという弊害を克服するためにリンパ腫細胞の形態学的 所見のみでなく、免疫学的特性、臨床所見(病態)、および分子遺伝学的所見を加えてリンパ腫を異なる疾患単位の集合ととらえることによって診断の再現性の 向上を目指すものである。引き続いて2001年に発表されたWHO分類もREAL分類の基本的立場を踏襲している。2008年夏にはWHO分類の改訂版が出版される予定となっている。

  本邦の悪性リンパ腫は増加傾向を示しており、特にB細胞性リンパ腫で増加が著しい。2002年の時点における大阪府がん登録によると人口10万人当たりの罹患率は男12.7、女9.7となっており、かつての罹患率34人より大幅な増加となっている。WHO分類において悪性リンパ腫の病型は40弱もあり、一般の病理医にとり、時々提出されるリンパ腫疑いの症例を、これらの病型に適切に分類することは必ずしも容易ではない。このような背景のもとに1999年大阪リンパ腫研究会(OLSG)を大阪府下27施設の参加のもとに発足させ、悪性リンパ腫の中央診断体制を確立し、臨床研究を推進してきた。2007年末現在、大阪府、兵庫県下の約60施設がOLSGに参加しており、1年間の登録症例数は600例をこえる状況となっている。以下に大阪地区(本邦のHTLV-1非汚染地区)の悪性リンパ腫の特徴を簡単に紹介する(図1参照)。非ホジキンリンパ腫に限って、その中の各病型の頻度を大阪例と西欧例で比較すると最大病型であるdiffuse large B-cell lymphomaの頻度が大阪(49.6)で西欧(30.6)より高い。Peripheral T-cell lymphoma, unspecifiedも同様である。一方、濾胞性リンパ腫は大阪で16.7%、西欧で22.1%と西欧で高いものの、かつてのような顕著な差ではない。

 【図1】

悪性リンパ腫の診断について

 他の臓器と同様に、悪性リンパ腫の診断もパターン認識が中心となる。

 洞型の悪性リンパ腫としてはanaplastic large cell lymphomaが挙げられる。実質型のうち濾胞周囲型を示すものはマントル細胞リンパ腫、濾胞辺縁帯B細胞リンパ腫がある。濾胞型は濾胞性リンパ腫、濾胞間型にはホジキンリンパ腫と末梢性T細胞リンパ胞が挙げられる。両者とも背景に種々の程度の炎症細胞が出現し、polymorphic(多彩)な組織像を示す。炎症細胞が出現し、いずれの病型も進行するとびまん型となる。

(組織病理アトラス 第5版より転載)

 【図2】