変形性膝関節症から発生したMALTリンパ腫

 大阪大学大学院医学系研究科病態病理学教室
池田 純一郎

 MALT lymphomaは慢性炎症を基盤として発生する低悪性度B細胞性リンパ腫であり,胃,眼付属器,大腸,甲状腺,肺,唾液腺などに発症する.発症要因としてはヘリコバクターピロリ感染に伴う慢性胃炎およびシェーグレン症候群,橋本病,関節リウマチなどの自己免疫疾患による慢性炎症が基盤となっている.今回我々が経験したMALT lymphomaの稀な症例を提示する.

 【症例】
50
歳代前半女性.約2年前から歩行時に右膝痛を自覚し,近医受診したところX線にて,変形性膝関節症と診断された.経過中に関節リウマチを示唆する所見は認めなかった.経過観察中のMRIにて半月板の損傷が認められたため,20072月に関節鏡を施行したところ,右膝蓋上嚢部にchondromatosis類似の結節状の滑膜腫脹が認められた.生検を施行したところ,病理組織において,滑膜の間質内に二次濾胞の残存がみられ,その周囲に小型lymphoid cellの増生が認められた.増生する小型lymphoid cellは核に軽度の不整を有し,豊富な胞体を有するmonocytoid B-cell様の細胞であった.Dutcher bodyを有する細胞も確認された.免疫染色にて増殖する小型lymphoid cellCD20(+)CD79a(+)CD3(-)B細胞性マーカーに陽性を示し,免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成のクローナリティ解析においてmonoclonal bandが認められたことから,MALT lymphomaと診断された.診断後6ヶ月の時点では,無治療・無症状で経過している.本例は変形性膝関節症に合併したMALT lymphomaの文献上,世界の第一例目の報告である.