ホジキンリンパ腫の理解

住友病院 病理部 
中塚 伸一

  ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫の中でも特異な臨床病理学的特徴を有する疾患である。

独 特の形態学的特徴もさることながら、その特異な疫学的・臨床的特徴から、これを1個の均一な疾患単位としてとらえてよいものか、古くから議論の対象となっ たところであり、今日でもその意味では完全な理解には至っていないと言ってよい。ホジキンリンパ腫は、臨床的には反応性病変と区別がつかないような非常にindolentな経過をたどる病変から通常の非ホジキンリンパ腫と変わらない悪性の経過をたどる病変まで、幅広い病変が含まれている。1966年に提唱されたRye分類は、ホジキンリンパ腫を4つの亜型に分け、疾患の不均一性を比較的理解しやすく整理した分類として、血液内科医、病理学者の間で長らく用いられ、また機能してきたが、そこには病因、病態の本質に迫る説明はなかった。

 ホジキンリンパ腫の本態が真の意味で理解されるようになってきたのは、1990年代以降の近年の話である。ホジキンリンパ腫の本態の理解を可能にした最大の技術進歩は、ホジキンリンパ腫の腫瘍細胞であるReed Sternberg (RS)細胞の採取を可能にしたマイクロダイセクション法であり、また採取したRS細胞のclonalityの解析を可能にしたsingle cellレベルでのPCR技術である。この技術によって得られた最大の収穫は、ホジキンリンパ腫の大部分がB細胞を起源とするclonalな腫瘍性病変であったという事実であり、ホジキン病という名称がホジキンリンパ腫と変更されたのもこの事実によるものである。

 さらに、免疫グロブリン遺伝子の変異パターンの解析と免疫グロブリン鎖の発現、B細胞性分化調節を担う転写因子の解析は、ホジキンリンパ腫の中からnodular lymphocyte predominant (NLP) typeという非常に予後のよい亜型を分離した。古典的ホジキンリンパ腫のRS細胞がB細胞への分化を促す転写因子の発現を失い、EBV感染との関連性が高いのに対し、NLP typeの腫瘍細胞はB細胞性マーカーの発現は保たれており、EBVとの関連はない。

ホジキンリンパ腫は前述の通り、特殊な性格を持ち合わせたB細 胞性リンパ腫であるという認識が広まりつつあり、従来の非ホジキンリンパ腫との境界が不明瞭となっていく可能性があるが、将来的にホジキンリンパ腫が、非 ホジキンリンパ腫とともに悪性リンパ腫という枠組みで議論されるようになっていくのかは明らかでない。また、古典的ホジキンリンパ腫の各亜型が、同一疾患 の進展の違いを見ているものなのか、病理発生の異なる疾患が混在しているものなのかについても、現在のところ分子生物学的に証明された明瞭な結論は出てい ない。その意味では、ホジキンリンパ腫は今もなお今後の分子生物学的な検討によるbrush upを必要としている疾患概念であると言える。