悪性リンパ腫の治療 (造血幹細胞移植を中心として)
兵庫医科大学・血液内科 教授
小川 啓恭
悪性リンパ腫は、多剤併用化学療法、放射線療法、および分子標的療法の進歩により、多くの患者が生を得るようになってきた。しかし、依然、多くの問題を有している。悪性リンパ腫に対する治療を、造血幹細胞移植療法を中心にreviewしたい。悪性リンパ腫に対しては、治癒指向型治療を行うことを原則としている。移植可能な65歳以下の患者に対しては、基本的には、3段階で考えている。通常療法→自家末梢血幹細胞移植→同種造血幹細胞移植の順である。
通常療法により、Hodgkinリンパ腫では80%、diffuse large B cellリンパ腫では、risk factorに応じて40-80%に治癒が得られる。化学療法で治癒に至るほとんどの患者は、初回の化学療法で完全寛解に入り、再発することがない。したがって、寛解導入不能例と再発例が、移植の対象となる。一方、移植を行うためのhost側の条件として、比較的若年齢(65歳以下)と重要臓器の障害がないことが必要である。
自家末梢血幹細胞移植(autoPBSCT)が成功するための条件として、腫瘍細胞の骨髄浸潤がないことと、抗がん剤に対して反応性を有していることの2点が挙げられる。autoPBSCTは、超大量化学療法により、力ずくで治癒を得ようというものである。しかし、通常量の抗がん剤に対して反応性を欠いた症例(resistant relapse)に対しては、たとえ10-20倍量の抗がん剤を投与したとしても、治癒は望めない。一方、反応性を有する再発例(responsive relapse)では、50%程度の長期無病生存を見込むことができる。
autoPBSCTで治癒が望めない症例に対しては、同種造血幹細胞移植が考慮される。同種移植の基本型は、骨髄破壊的前処置(大量抗がん剤療法+全身放射線照射)の後、HLA適合同胞の骨髄を用いて、移植を行うことである。このようにすると、2-3週間後、患者の造血細胞はドナー由来に置き換わる。最近の考え方では、同種移植の抗腫瘍効果は、前処置の大量放射線化学療法によるのではなく、ドナーのアロ免疫によるとされる。したがって、軽いGVHD(ドナーの免疫担当細胞が患者の正常組織を攻撃する好ましくない反応)が起こる方が、全く起こらない場合より、再発が少なく、結果がよいとされている。同胞間でHLAが適合する確率は、25%である。昨今の少子化の影響もあり、血縁内でHLA適合ドナーが得られる確率は低下しつつある。これを補うため、骨髄バンク(非血縁骨髄移植)や臍帯血バンク(非血縁臍帯血移植)が設立された。しかし、骨髄バンクでは、ドナー/レシピエント間のコーディネートに時間を要し、移植を急ぐ必要のある患者には不向きである。一方、臍帯血移植の問題点は、造血幹細胞の不足にある。そのため、高い拒絶率(10%程度)に加え、生着したとしても造血回復に時間を要し、感染症死の危険性が高くなる。これらの移植の問題点を解決するため、我々は、HLA半合致移植(ドナーとレシピエントの間でHLAが半分一致/半分不一致の移植)を開発した。HLA半合致移植では、ほぼ100%の確率で、移植可能なドナーが血縁内で見つかるため、同種移植において、ドナーの問題がほぼ解消される。一方、骨髄バンク移植のようにコーディネート期間はなく、臍帯血移植の場合のように生着不全の心配もない。一方、HLA半合致移植では、生着後のGVHDが最大の問題である。我々は、この問題を、移植前後に生じるcytokine stormをコントロールすることにより、解決しようとしている。これら造血幹細胞移植療法の最前線についても解説したい。